アロマと石鹸の物語

ティートリーの物語

2017.05.30
writer:AYAMI

ティートリーとの最初の遭遇は衝撃的なものだった。“TEATREE”――お茶の木から採れたオイルってどんな香りがするのだろう。爽やかな緑茶のような香りを想像しながら、私はボトルに顔を近づけたのだった。胸いっぱいに香りを吸い込む。香りを味わおうとしたその瞬間、想像とは全く違う、むせかえるようなツーンとした匂いが漂ってくるではないか。どちらかと言うとユーカリやミントのような香り。又は、消毒剤のような薬のような、何だか「効きそう」な香り。そこに、お茶の要素は全くなかった。 ティートリー

アボリジニの万能薬

ティートリーの名前の由来を調べてみると、不可思議なことにやはり「お茶の木」が由来だった。その昔、オーストラリアでは先住民族のアボリジニたちが、ティートリーを民間療法として用いていたという。咳が出たり風邪をひいた時にはティートリーの葉を噛んで痛みや症状を和らげ、呼吸器に異常をきたした時には葉を砕いてオイルを吸入し、傷口や火傷には水に浸してできたエキスを塗った。また、体調不良の時はティートリーの葉を煮出して飲用していたという(b)

1770年、かの有名なイギリス海軍のジェームズ・クック船長により、オーストラリアへの白人の入植が始まった。入植者たちは、アボリジニたちが飲んでいた大変香りの良い飲み物を見て、それをお茶の木、すなわち"TEATREE"と呼んだという。クック船長が、愛飲していたビールにティートリーの葉を加えたところ、ビールの味が格段に良くなったという逸話も残っている(a)

ジェームズ・クック船長
ジェームズ・クック船長

ちなみにティートリーの木は、お茶の木とは全く別のものだ。お茶はツバキ科、ティートリーはフトモモ科で、日本では学名のMelaleuca alternifoliaにちなんで、「メラレウカ」とも呼ばれる。同じくオーストラリアに自生しフトモモ科に属すハーブには、カユプテ、ニアウリ、ユーカリ、クローブがあり、どれもティートリーと同様、強力な殺菌作用がある(d)。ちなみにマヌカハニーのマヌカもフトモモ科だ。マヌカハニーはピロリ菌をも殺す強力な殺菌力で知られている。

忘れ去られたティートリー

アボリジニたちにとっては万能薬として使われていたティートリーだったが、当時、ティートリーに価値を見出す入植者は少なかった。先住民が使っているものは「原始的」で「未開」というイメージが先行していたからだ。これは同じくアボリジニたちが愛用していたユーカリについても同様だ。当時のヨーロッパでは、ハーブは薬として大変重宝されていたのに皮肉なことである。こうしてティートリーはヨーロッパの人々の記憶から徐々に忘れ去られていった(a)

“Tea Trees near Cape Schanck, Victoria” by Eugene von GUERARD (1865)油絵
オーストラリアのケープ・シャンク近くのティートリーを描いた絵画 
(“Tea Trees near Cape Schanck, Victoria” by Eugene von GUERARD, 1865, 油絵)

そんなティートリーが「再発見」されるのは、クック船長の時代から150年も経った1920年代になってからのことだ。オーストラリア政府主導で行われた研究では、ティートリーには当時使われていた消毒剤の13倍の防腐作用と殺菌作用があることがわかった(a)。これを機に、世界中でティートリーの薬理効果について研究が始まることになる。

やがてティートリーは、ウイルス性(インフルエンザなど)、真菌性(水虫など)、細菌性(化膿した傷など)の感染症すべてに有効であることがわかり(a)、家庭の万能薬として常備されるようになっていった。オーストラリアの医師は、傷や切開手術の際にティートリーを使った(b)。第二次世界大戦が始まると、オーストラリアの陸軍や海軍では救急処置薬としてティートリーが常備される(b)。軍需工場では機械の切断用オイルにティートリーが配合され、皮膚の傷を防いだ(a)

しかし第二次世界大戦が終わると、再びティートリーは忘れ去られてしまう。時代は自然療法ではなく、「化学」に傾いていったのだ。数々の有用な薬や殺菌剤が発明され、以後、世界的に、ハーブや自然療法は次第に「おばあちゃんの知恵袋」のアイテムの一つになっていった。

このままハーブはその運命を終えるかと思われたが、1960年代に再び注目を浴びるムーブメントが起こる。当時は、化学物質による環境問題や、薬の副作用、抗生物質の耐性菌の問題が議論されるようになっていた。ヒッピーによる自然回帰運動が興ったのはちょうどこの頃だ。彼らによって、再びハーブや自然療法に注目が集まるようになったのだった。

そして、1980年代にティートリーが「再再発見」される。ティートリーの薬理効果の研究が進むと、ティートリーを商業的に農場で栽培する人たちが現れたのだ。以前のオーストラリアでは、ティートリーは根こそぎ取らないとすぐに生えてくる、入植者にとって非常にやっかいな木だと思われていた。しかし、今では約二年で精油が採取できる、非常に効率の良い「金のなる木」となった(a)

ティートリーの農場
ティートリーの農場

ティートリーの歴史は古くて新しい。近年ではティートリーの消毒・殺菌作用、皮膚再生作用などの論文も多く出ており(c)、様々な商品にティートリーの精油が配合されている。石鹸を始め、化粧水やシャンプー、洗濯洗剤から犬猫のケアまで多種多様。こうしてアボリジニの万能薬は、現代の私たちにとっての万能薬になった。アボリジニたちがこれで傷口を治していたことを想像しながら、今日も私は擦り傷にそっとティートリーを塗りこんでいる。

参考文献

  1. ジュリア・ローレス(1998)『ティートリー油 精油の科学と使用法シリーズ 3』 フレグランスジャーナル社
  2. ティエラオナ・ロウ・ドッグ、他(2014)『メディカルハーブ事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  3. 井上重治、他(2011)『抗菌アロマテラピーへの招待』 フレグランスジャーナル社
  4. シャーリー・プライス、他(1999)『プロフェッショナルのためのアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社

writer:AYAMI

アロマティシアのオーナー。『香りと暮らし研究家』として活動。2011年より『アロマティシア』を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。

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