おとなの可愛げキモノ帖

一生ものってなんですか

2016.02.10
writer:半澤リカ

一生もの、ということを昔はよくいいました。知人に、そういう一生ものの結城(ゆうき)を、時折着て出てくる人がいました。それで、なかなかいいのです。ふだんよりずっと女振りがあがります。地味な着物の下で からだじゅうが浮々と弾んでいるような 顔にはなにかはにかみの表情があり うすく上気して 一生ものを着たとき、ふしぎです。そのひとに色気が添わって、きれいでした。

『月の塵』幸田文 (講談社 1994)

この文章にある結城(ゆうき)は、茨城県結城市、鬼怒川流域でつくられている『結城紬(ゆうきつむぎ)』という織物です。国の重要無形文化財でもあり、その600年以上も続く伝統的な生産方法はユネスコの無形文化遺産登録を受けています。この着物について、最近改めて体感したことをすこし。

冬は冬なりの着物がある

寒い季節に纏いたくなる服があります。 ざっくりニットや、滑らかなカシミア、すこし上品にツイード・・・ 着物にも同じように冬なりの着物があると感じた日がありました。 それは今年一番の寒波の日(沖縄に雪が降ったあの日です)。 地味だなあ、と思いながらも久しぶりに着てみようかと袖を通した結城紬の底力に驚きました。体全体、特に腰回りがほこほこと温かいのです。

それもそのはず、秘密は真綿から糸を紡いでいるから。 真綿、といっても木綿ではありません。 蚕の繭を湯で加工し、薄く押し広げ、綿(わた)のような形状になったもの。こうして作った手紡ぎの絹糸は、温かい空気を孕み易いのです。

着て。育てるエイジング。

ワインなどを熟成させるのと同様、着物の生地もまた着て、手入れをするごとに味わいが増していきます。 特に、三代着て味が出る、というほど丈夫でしなやかな柔らかさを持つのが、この結城紬の特徴です。洗い張り(着物の形を解いて水やお湯を通して洗い、また仕立てること)をするごとに真綿の糸が絡み、馴染み、なんとも軽くそれでいて温かくなるのだそうです。

わたしの働く着物屋ではかなり長い時を経て受け継がれてきたのだろうな、と思うリユースの本場結城紬があります。触ってみると、その生地は本当に薄く、軽く、つぶつぶした優しい風合いがすてきなのです。

洗い張りして仕立て直す、というお手入れは普段のお手入れより値がはるので、毎回はできないのですが、それだけ丈夫な着物を代々受け継ぎ、自分の寸法に合うように手入れする。そのエイジングで手に入る生地の熟成がたまらないのだそうです。実際、周りの着物通の方々は、その軽さと温かさで、冬は結城紬のおしゃれを楽しむ方が多いような気がします。

わたしの結城紬は仕立ててまだ一度も洗い張りをしていません。まだパリッとした硬さを着ていても感じます。わたしも、この着物もまだまだこれから、といった感じです。

参考商品:
結城紬(縞 臙脂) \80,000(税抜)
名古屋帯(ぜんまい地 更紗柄) \100,000(税抜)
帯締め \2,800(税抜)
本場結城紬(植物柄 臙脂と紺地) \100,000(税抜)

参考文献 :
石嶋眞理,yufukiyaスタッフ (2009)『結城紬―着る・作る・知る』繊研新聞社
幸田文(1997)『月の塵』講談社文庫

writer:半澤 リカ

着物スタイリスト、たんす屋青山店ショップオーナー、伝統色彩士協会認定講師。青山学院大学在学中に着物のファッショナブルさに目覚める。その後、セレクトショップ勤務を経て、大手リサイクル着物会社に就職。あらゆる着物の仕入れ、販売、着付け、スタイリング、メンテナンスのアドバイスに10年携わる。日常のおしゃれの中に自分らしいきものを!がテーマ。趣味は、美味しいものを食べること。温泉。 

Instagram:rikahanzawa_kimono

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