ほんのかくし味

ひなまつり 平安の世から現代まで変わらぬ願い

2016.03.01
writer:豊田希

節分が終わり花の季節が訪れる。

桜

豆まきをする節分は、「季節を分ける」という意味があるのはおなじみのところ。暗く長い冬が終わり、暖かな春が来る。いにしえの頃、人々がどれほどこの日を待ち侘びていたかと思いを馳せる。

歌で表現するならば、4月の桜は『サビ』。とすると、2~3月に春の香りを届けてくれる桃や梅は、『Aメロ』といったところか。あざやかな桃色や、透明感がある乳白色の花々は、桜に増して、可憐で奥ゆかしく儚げなうらやましいほどの女性美にあふれている。

ひなまつりは宮中のこどもたちが起源??

桃の節句

平安時代の宮中では、自分を模して作った草木や紙の人形に、自らの厄をのせて川に流すという儀式「流し雛」と、3月3日に人形を祀り厄除けを祈願する「上巳(じょうし)の節句」の儀式が行われていた。この時期は、邪気を祓うといわれる桃の花が咲くことから、やがて「桃の節句」と呼ばれるようになり、うららかな陽射しを浴び、ひな遊びをする女の子たちから、桃の節句=女の子のお祭りとなったとか。海外の王室がそうであるように、日本でも宮中は文化と流行の発信地だったというわけだ。

これまでもこれからも。

お正月が終わる頃、テレビを見ていると、老舗人形メーカーのCMが流れる。

「女の子の健やかな成長を願って。」

このキャッチコピーは、記憶する限り私がものごころついてから変わっていない。このセリフは新たに家族の仲間入りをしたプリンセスを持つオトナのお財布に効果抜群のキラーワードなのだろう。数十年前、私の祖父母も初めてのひなまつりに合わせてひな人形を贈ってくれた。その頃は、こんな憎まれ口を叩くとは想像していなかっただろうに。

ひなまつりならではの食。

お正月にいただくおせち料理とおなじく、古くからの伝統行事には食がつきものだ。地域によって特徴があるのもおもしろい。日本って、小さくて大きい国だなぁと、しみじみ感じる。あれもこれもと準備するのは大変だが、いくつか代表的なものをご紹介しよう。

「菱餅」
魔除け(桃色)、純潔(白)、健康(緑)で春の情景を表現している。

「白酒」
長寿を表す桃花を酒に浸した桃花酒が江戸時代から白酒に変化したといわれる。穢れ(けがれ)を祓う清めの酒として白酒がもちいられていたが、子供でも飲めるようにノンアルコールの甘酒もひなまつりアイテムとして広まった。

「蛤のすまし汁」
二枚貝である蛤は、他の貝殻とは絶対に合わないことから貞操と夫婦和合の願いが込められている。

「ちらし寿司」
海老(長寿)、蓮根(見通しがつく)、いくら(子孫繁栄)などの縁起の良い食材を多く使う。

「ひなあられ」
菱餅を砕いて作ったのが起源といわれる。宮中ではひな人形に春の景色を見せる行事があり、その際に携えたおやつだった。

我が家では、菱餅とひなあられをひな人形と共に飾り、3月3日の朝にはちらし寿司を備え、そして夜、蛤のすまし汁とともにお寿司をいただき、食後に甘酒をいただくのが定番だ。今年はどんなお寿司にしようかと考えるのもまた楽しい時間だ。

ひなまつりのほんのかくし味。

ひな人形

健やかな成長を願って買ってもらったひな人形。自分とほぼ同じ年月を刻んできたと思うと、愛おしさが年々増していく。1年のうちほんの数週間だけの対面に、誰しもいろいろな思い出を蘇らせるものだろう。

「ひなまつりが過ぎたらすぐに片付けないと婚期が遅れる」とよくいわれるが、過ぎた行事のものをいつまでも飾っておくのはだらしがないこと、という教えが、この脅しにつながったらしい。

ひとつひとつ飾り、またひとつひとつ片付ける。
お寿司やお菓子を供え、健康と平穏な毎日を願う。

大人になったいま、ひなまつりを丁寧に楽しむことが、両親や祖父母の想いに応えることなのではないだろうか。ふわりと鼻をくすぐる桃の香が、雅な時間に誘ってくれるはずだ。

writer:豊田希

勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。

HP:Studio CREATABLE / クックパッド料理教室

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