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ハンガリー生活、はじめました

トラムのある生活

2016.11.16
writer:本宮じゅん

学生時代から二回の転職を経ても、ブダペストに来る前での十数年間、私の毎日には『JR山手線』が欠かせない存在だった。乗車区間はその時の居住地と通学先・通勤先の最寄り駅によって変動していたが、朝の通勤時も夜の帰宅時も日中の移動時も、黄緑色(ウグイス色)の車体に見守られているという安心感に包まれていた。

ブダペストに来てから三ヶ月が経過した今、それはすっかり市内交通の『4番・6番トラム』に置き換わって、鮮やかな黄色の車体が私を目的地へと送り届けてくれている。

4番トラム
4番トラム

ドナウ川の西側のブダ地域から東側のペシュト地域を経てまたブダ地域へと、大環状通りを中心にブダペストの主要スポット間をぐるりと円を描くように走る『4番・6番トラム』。24時間運行しており、ドイツ・シーメンス社製の新型車両が導入されている。ちなみに先ほどから二つの路線を併記しているのは、十九ある停留所のうち十七の停留所の区間が、同じレールの上を走っているからだ。デザインも同じなので、普段の生活ではどちらに乗るのかは気にすることもなく、来た方にそのまま乗り込んでいる。

途中の停留所で地下鉄の全ての路線と乗り換えのできる両路線は、世界有数の混雑する路線ともいわれており、平日朝夕のラッシュ時は1分~1.5分間隔で運行。確かに東京の満員電車を思い出すほどの混雑具合となる。乗れなくてもすぐ次が来るので焦ることはない。なんとなく、山手線を思い出す。

ところで、つい先日まで『6番トラム』の路線の一部では、1956年のいわゆる『ハンガリー動乱』から六十周年を記念した『1956番トラム』が走っていた。

1956番トラム
1956番トラム

おそらく当時も同様の車体が走っていたのだと思われる。このトラム、走っている姿を目にすることはあってもなかなか乗る機会に巡りあえなかった。やっと乗れた時は、何かの抽選に当たったような気分になったくらいだ。ただ、乗り心地はやはりいつもの低床式の車体の方が快適だった。

ブダペストではもちろんそのほかにも、合計二十六系統ものトラム(※2016年11月現在)が街中を縦横無尽に走っている。 中でも観光で訪れる人々にとって一番身近なのは『2番トラム』だろう。

主要観光地を結ぶ2番トラム
主要観光地を結ぶ2番トラム

ペシュト地域を走るこの路線は、『4番・6番トラム』とは違って共産主義だった時代を彷彿されるレトロな車体。途中、『国会議事堂』、『セーチェニ鎖橋(Széchenyi Lánchíd)』、『ヴィガドー(Vigadó)』という文化ホール、『中央市場(Nagycsarnok)』の近くなど、ブダペストの主要観光スポットをまわることができる。

その上ほとんどの区間ドナウ川沿いを走るので、窓の外の眺めは絶景だ。ドナウ川を行き来する客船に、対岸には『王宮の丘』や『ツィタデッラ(Citadella)』という要塞が見える。私はブダペストの市内交通が乗り放題の一ヶ月定期券を持っているので、時々気分転換にこの路線に乗ってドナウ川の景色を楽しんでいる。思わず息を呑むような美しさに、ガタゴトと容赦なく揺れる乗り心地の悪さもまったく気にならない。もしブダペストを訪れることがあったら、ぜひ乗っていただきたい路線だ。

2016年3月の終わりに「ブダペストに世界で最も長いトラムが導入された」というニュースを聞いた時、私はまだ日本にいた。どれだけ長いのだろうか、その姿を一刻も早く見たいという衝動に駆られていた。導入された『1番トラム』は、『4番・6番トラム』よりずっとブダペストの外側を走っていて、普段の生活ではほとんど利用することはない。だからブダペストに来て間もないうちに、トラムと地下鉄に乗り継いで『アールパード橋(Árpád híd)』まで行って、その車両がやってくるのを待ち構えていた。

世界で最も長い!? 1番トラム世界で最も長い!? 1番トラム

確かに長かった。車両の長さが。一編成でなんと55.9mもあるとのことで、撮影する角度を工夫してファインダーになんとか収まったという感じだ。それぞれ長さが違いながらも、数えてみると九両編成もあった。どの車両に乗ろうか迷ってしまうくらいだった。

とりあえず、国外にも行く長距離バスターミナルがある『ネープリゲト(Népliget)』まで乗ってみた。随分長い距離を走っていたように感じたが、それもその通り、総走行距離は16.6kmと、ブダペストで最も長い距離を走る路線なのだ。途中旧型の車両とも何度もすれ違った。街の中心地では見かけることがないけれども、ブダペストの街が徐々に新しい時代へと進化していく上での象徴となっているような気がした。

こちらでの生活にもようやく慣れはじめ、最近は初めての場所でもトラムで難なく訪れることができるようになった。トラムはハンガリー語では『ヴィラモシュ(Villamos)』という。その言葉の響きも、力強いようでどこか優しく感じられるのが不思議だ。

motomiyajun

writer:本宮じゅん

2016年7月末にハンガリーのブダペストに移住したばかりの新米ライター。大学在学中に1年間ドイツのライプツィヒ大学に交換留学し、卒業後は外資系化粧品メーカー・広告代理店・外食産業と、業界が違いながらも通算14年近くマーケティング業務に携わった後、ハンガリーのブダペストへ。趣味は料理、街歩き、街歩きのついでに飲むビール。

blog:ドナウの東か、遥かもっと東から
twitter:@motomiyajun3  / Instagram:motomiyajun

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