ハンガリー生活、はじめました
色とりどりの花のある生活
writer:本宮じゅん
冬の終わりを、ずっとずっと待ち望んでいた。昼間なのに、ほとんど見えない太陽と白い空。重いコートと帽子と手袋と、スノーブーツで武装して歩く街。そして16時台には始まってしまう、長く続く夜。そのうえ最高気温でさえ氷点下。少しでも体を慣らしてみようと、運動も兼ねてウォーキングに励んでみたものの、結局なかなか寒さに適応できず、何度も風邪を引き込んで寝込んでしまった。ブダペストに来たばかりの去年の夏は、あまりの過ごしやすさに毎日お出かけするのが楽しみで仕方がなかったのに、冬が深まるにつれて、いつしかちょっとゴミを捨てるために外に出るだけでも億劫になってしまっていた。
けれどもそんな暗く重苦しい毎日がまるでウソだったかのように、春は突然ブダペストにも訪れた。それを教えてくれたのは、眩しく照らす太陽と澄み渡る青い空、そして近所の花屋のディスプレイだった。
街の花屋さん
学生時代に留学したドイツのライプツィヒもそうだったけれど、ここハンガリーのブダペストでも、街のいたるところで花を売る店舗やスタンドをよく見かける。地下鉄の駅へと続く通路に、トラムの停留所の近くに、大きな広場の一角に。半日出歩くだけでも何軒も目にすることだろう。しかも夜遅くまで営業している店も多い。ただ、当然といえばその通りなのだが、冬の間は閉めている店もあり、その存在をほとんど意識することはなかった。
それが春になった瞬間に、急に色とりどりの美しい花たちが目に飛び込んでくるようになった。ほんの少し前まで真っ白、もしくは灰色だった景色が、まるでキャンバスになったかのように鮮やかな色でいっぱいとなった。赤やピンクにオレンジ、黄色や白に紫と、さまざまな色を目にしているうちに、いつしか塞ぎ込みがちになっていた気分もあっという間に上向きになった。コートなしでも快適な日も続いて、新しい季節への希望と期待がどんどん膨らんでいった。
美しい花に囲まれる毎日
もちろん花屋だけでなく、公園や広場、道の途中に設置された花壇でもカラフルな花たちが街を彩ってくれる。いつの間にか、文字通り花に囲まれた毎日になっていた。そんな生活がとても嬉しくて、もしベランダか庭があったら自分でも育ててみたいくらいなのだが、残念ながら今住んでいるところにはどちらもない。だから、その代わりに出かけている間になるべく多くの花を見て、その姿を目に焼き付けている。綺麗な花を見つけるたびに足を止めて写真を撮ってみる。だけど何度撮ってもやっぱり、実物の美しさには及ばない。
素敵な花束のプレゼント
種や苗から育ててみるのは諦めたけれど、せめて部屋に鉢植えか切り花を飾ろうかと思っていた矢先に、ピンクのバラの花束をいただいた。日本語を教えている生徒さんたちからの、誕生日のお祝いに。教室の前でなんだかみんなそわそわしている様子には気づいていたものの、その日は誕生日当日ではなかったので、本当に思いがけないサプライズだった。花束を抱えながら帰りのバスに乗り、家へと向かう途中、いつもと同じ道のはずなのにそれだけでとても特別な気分になれた。今はキッチンで、このコラムを書いている間も、変わらずに私の心を癒してくれている。
ブダペストでも夜遅くまで開いている花屋が多いのは、それだけ遅い時間でも、花を買う人があとを絶たないからだと思われる。友人からは、「(男性陣が)誕生日や記念日でなくても、いつでも恋人や奥さんにプレゼントできるためらしい」と聞いていたし、たぶんその通りなのだろう。花は人々の生活の中で必要不可欠、むしろ当たり前の存在になっているのだ。最近は春を通り越してすでに初夏の陽気を感じる日もある。まだまだこれからもしばらくは、さまざまな花たちがブダペストの街と私たちの毎日を鮮やかに彩ってくれることだろう。
writer:本宮じゅん
2016年7月末にハンガリーのブダペストに移住したばかりの新米ライター。大学在学中に1年間ドイツのライプツィヒ大学に交換留学し、卒業後は外資系化粧品メーカー・広告代理店・外食産業と、業界が違いながらも通算14年近くマーケティング業務に携わった後、ハンガリーのブダペストへ。趣味は料理、街歩き、街歩きのついでに飲むビール。
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