HAPPYさがしてヨーロッパ
防虫剤を探して
writer:Fumi
ソーシャルネットワークでは桜が満開。ピンクではないまさに桜色。桃色もそうだが、季節を尊重する日本の美しい表現だと思う。日本の春を映すコンピューターの後ろの窓から、雪が舞うのが見えた。数週間前の二十度に浮かれたのは春の夢、ここ一二週間、冬が舞い戻って来てしまった。
浮かれついでにもちろん衣替えも済ませていた。ヒートテックもダウンコートもきれいにしまっていた。
季節の習慣
衣替えというのは懐かしい風物詩だ。母や祖母が押入れや箪笥を総入れ替えしている様子をよく横目にしつつ、防虫剤の匂いが好きでちょっとハイになったものだ。温暖化や異常気象とはいえ、日本の四季はやはりはっきりしている。それに夏場の湿気を考えれば、衣替えはやはり欠かせない季節行事なのだろう。
そんな習慣が身についているので、乾燥地帯のヨーロッパでも一応それとなく衣替えをするのだが、上述した通りタイミングを間違えることがよくある。万年床、でもないが万年箪笥で入れ替えなくてもいいんじゃないのか、と思う年も何度かあったが、お気に入りのカシミアやシルクなどは虫に食われてはたまらないので、やはりきちんとしまっておきたい。
衣替え=防虫剤
乾燥していても、カシミア好きなグルメな虫はいるものだ。安物を食べてくれればいいのに、よりによって一張羅を狙うのでタチが悪い。頭の中で『衣替え=防虫剤』という観念が固定しているので、香りが印象深く残るあの防虫剤をイメージしてドラッグストアに行く。
虫コーナーに行くとハエ退治、アリ退治、ナメクジ退治(!)のスプレーが並ぶ。そして気づくのがゴキブリ退治品は一切ない、ということ。ゴキブリがいないのだ。フランスで一度ゴキブリを見たことがあるが、色は薄く、小さく、貫禄なし。あれ以来出会っていない。寒くてどの虫も出てこないので、退治スプレーはまだいらない。
目線を移して衣服用の退治グッズをみる。種類がない。季節ものだからといって特売しているわけでもなく、とにかく活気がない。しかもどれもラベンダーの香りとなっており、癒し系コーナーにいるようだ。
ラベンダー系の防虫剤しかない、というのがこちらの虫対策事情。実際、植物のラベンダーをバルコニーに置いている家庭は多く、これはハエ除けにもなるし、摘み取ってサシェに入れて吊るしている。私にはちょっと自然すぎるのだが、これでいいのだろう。病気の時も抗生物質でなく、ハーブティーで治せというお国柄なのだから仕方ないか。
仕方なく、頼りないが虫除けペーパーを買ってみる。「半年ごとに取り替えてください」とのこと。交換時期が窓から見えるように工夫された日本の防虫剤と違って、日付は自分で書き込むのがヨーロッパらしい。やはりこの程度のものではどうも不安なので、せいぜい木綿くらいにしか使えない。
案の定、カシミアに穴を発見した悔しい思い出以来、日本に帰ると毒々しくて虫とともに自分もやられてしまいそうな防虫剤を買ってくることにしている。
衣替えの話題でこんな技も耳にしたことがある。いつもおしゃれで良いものを着ているパリジェンヌ嬢は「クリーニングに出したら次のシーズンまで取りに行かないの。クローゼットの入れ替えの手間も省けるし、虫もつかないし。」うふふ、とパーティーで着たドレスをクリーニングに出す時に言ってたっけ。
気づいたのはそもそも衣替えの概念が薄いこと。ダウンジャケットはさておき、セーターは一年中着ているので、すぐ手の届くところにないと困るというのが現実だ。
writer:Fumi
ドイツ在住、Gourmieオーナー。10代の頃から、フランス、スイス、ドイツ、オーストリアなどヨーロッパ各地に住み、遊学。現在はベルリンを拠点に、スイーツやデリなどのメニュー開発及びケータリングに携わる。2013年から始めた日本文化を気軽に楽しむことができるお料理教室は、ベルリンやウィーンで人気に。趣味は、読書、美術鑑賞、食べること。
HP:Gourmie / Instagram: gourmiefumi