HAPPYさがしてヨーロッパ
パルムドールをさがして
writer:Fumi
あまりの寒さに逃避行したくなり、パリへやってきた。ついこの間までブルブルと震えていたと思うと突然三十度近くになるという予報で、お天気のお姉さん(だいたいこちらは貫禄ありのマダムなことが多い)が嬉しそうにしている。
フランスでは熱かった大統領選挙がようやく終わりネタが尽きたところで、次はカンヌ国際映画祭の話題でちょうど持ちきりとなっていた。金のヤシ(パルムドール)がモチーフとなった大賞が送られる、世界最大映画祭の一つだ。
映画は決してよく観る方ではない。けれど『マティネ』と呼ばれる午前中の上映が好きで、フランスに来ると足繁く映画館に行くようにしている。朝一の上映でだいたい九時から十時開始。
映画館に足を運ぶ人が減ったと言われるネット時代、おそらく午前中から映画を観にくる人というのがそもそもいなくなっているのであろうが、赤字承知でマティネしてくれる映画館の存在は嬉しい。実用主義なドイツには基本的にこのシステムはなし。
マティネは、午前中に時間のある自由人、定年退職している年配の人、大学生などが多い。正規料金では1,200円くらいのところ、750円程度で観れるのも嬉しい。広い映画館に一人ぽっちとなることも多々ある。そうなることが多いからなのか、朝から観るものではないからなのか、ホラー映画は基本的に上映されない。
昔からこの映画情報誌を買うのが好きだった。かつては50円くらいで二種類売られていたが、これまたネットでなんでも調べることのできるご時世、片方は去年廃刊となった。辞書も新聞も本も紙でないとダメな私は、未だに刊行を続けるもう一種の情報誌を未だに買っている。白黒の紙面とペンを持ってくまなくチェックする様子は、競馬新聞を読むおっさんの気分だ。映画だけでなく、演劇、展覧会、オペラ、バレエなどの公演情報も満載。
今回選んだのはフランソワ・オゾン監督の最新作。公開初日だったからか、マティネの割りには混んでいる。フランス映画はロマンチックなシーンだらけだ、というイメージを持っている方が多いと思う。日本映画よりは確実にキスシーンが豊富で目のやり場に困ることもある。オゾン監督の『L’amant double』は双子の精神をテーマとしたエロティックスリラーで、キスシーンどころではすまなかった。あとで聞けばその破廉恥なシーンでカンヌ国際映画祭ではブーイングも飛んだとか。
それと対をなすような存在の日本映画もフランスでは人気を集めている。感想を聞くと「禅を感じる」だとか「静かで美しい」だとかいうものが多い。昔はやはりエキゾチックな『侍』などがウケていたが、最近はありのままの現実の日本を見られる日本映画が人気でホッとする。過労死はあっても切腹はもうないことは十分伝わっている。
というわけで朝からすごいものを観て映画館から出ると、目の前には眩しいロマンチックなパリの街が広がり、いわゆるフランス映画のようなロマンスが訪れるのではないかという気分にさせるのだった。携帯をオンにすると、「飛行機のチェックインをすませてください」というメールが入り、明日ベルリンに帰るという現実に引き戻された。
writer:Fumi
ドイツ在住、Gourmieオーナー。10代の頃から、フランス、スイス、ドイツ、オーストリアなどヨーロッパ各地に住み、遊学。現在はベルリンを拠点に、スイーツやデリなどのメニュー開発及びケータリングに携わる。2013年から始めた日本文化を気軽に楽しむことができるお料理教室は、ベルリンやウィーンで人気に。趣味は、読書、美術鑑賞、食べること。