ハンガリー生活、はじめました
バラトン湖のある生活
writer:本宮じゅん
ハンガリー語には、「ニャラル(nyaral)」という「夏の休暇を過ごす」という意味の動詞がある。冬が長いヨーロッパの他の国々と同様、ハンガリーでも人々にとって夏は貴重な季節。六月の終わりともなると周りでもちらほらと夏休みを取る人が増え、八月の今はまさにシーズン真っ盛りだ。Facebookのタイムラインでも、友人たちがそれぞれの休暇先でエンジョイしている写真が次々と並んでいる。
休暇先を過ごす場所として国内で最も人気なのが、ハンガリー最大の湖である「バラトン湖(Balaton)」。七月に開催された世界水泳選手権でも一部会場になっていたので、その名を耳にしたことがある方も多いかもしれない。ブダペストから南西に130キロメートルに位置している横に長い形の湖で、長さは約78キロメートル、面積は約600平方キロメートルもある。琵琶湖より少し小さいサイズだ。
内陸国で海のないハンガリーでは、バラトン湖は「ア・マジャル・テンゲル(a magyar tenger)」、つまり「ハンガリーの海」として親しまれている。この七月、ほとりのとある町に別荘を所有している友人に招待されて、初めてその雄大な姿を見ることができた。
高台にあるその別荘からは、湖の反対側までくっきり見えた。時間の流れとともに空の色が変わり、空の色が変わるとともに湖面の色も変わる様子がとても美しくて、そのさまざまな表情をテラス席に座ってただ眺めているだけでも全然飽きなかった。時折、ヨットを楽しむ人々の姿も見えた。流れは穏やかとはいえ、湖でなくて本当に海のように見えた。
友人たちは一週間ここに滞在し、途中湖や近くの町まで出かけたり、庭でバーベキューをしたり、テラスで読書をしたりと、日常のことを忘れてとにかくゆっくり過ごすとのことだった。もし一週間休暇が取れたら、私だったら飛行機に乗って外国に行って一泊か二泊ごとに別の街を訪れて、という慌ただしい過ごし方しか頭に浮かばないのだが、彼らからしてみたら、一箇所に落ち着いてのんびり過ごすというスタイルがスタンダードのようだ。ちなみに一週間というのは短い方のようで、二週間、三週間と休暇を取る人もいるらしい。
翌日の夕方に用事が入ってしまったので、結局一泊しかできなかったのだが、友人たちのおかげで私自身もすっかりリフレッシュしてブダペストに戻った。戻って早々、たまたまハンガリー語の料理雑誌を買ったところ、なんとバラトン湖周辺都市のグルメガイドがおまけに付いてきた。中でも厳選の360店を紹介している。パラパラとめくっていたところ、一軒家で雰囲気の良いレストランがいくつか目に入った。また、バラトン湖周辺にはワイン産地もあり、特に白ワインが名産だ。友人の別荘でも冷えた辛口の白ワインをいただいたのだが、上質な味わいがとても美味しかった。秋になったら、ワインがオススメのレストランにもぜひ訪れてみたい。
writer:本宮じゅん
2016年7月末にハンガリーのブダペストに移住したばかりの新米ライター。大学在学中に1年間ドイツのライプツィヒ大学に交換留学し、卒業後は外資系化粧品メーカー・広告代理店・外食産業と、業界が違いながらも通算14年近くマーケティング業務に携わった後、ハンガリーのブダペストへ。趣味は料理、街歩き、街歩きのついでに飲むビール。