HAPPYさがしてヨーロッパ
自分の香りをさがして
writer:Fumi
夏を待っていたはずなのに秋が訪れた。街中でダウンジャケット姿をちらほら見かける。朝晩には炭暖房を焚いている香りがすることもある。
東西分裂を引きずるベルリンでは未だに旧式暖房システム、豆炭暖房というものが存在し、これを焚くとすぐに独特の香りがする。暖炉で薪木を焚くあのゴージャスなイメージではなく、炭鉱で顔を黒くしている図を思い描いて欲しい。私も一度経験したが、炭に着火させることができずに凍えていた冬があったっけ。あの頃は若かった。
さて話が逸れたが、汗臭い夏が終わると、秋らしい香りに加えていい香りにも気がつくようになる。今回は、日本ではまだまだ日常的に使いこなしている人が少ないであろう『香水』について。
ヨーロッパのデパートでは基本的に一階がコスメティックフロア、その半分以上を占めているのが香水売り場だ。そこには大概売り子さんが立っていて、日本のデパ地下の味見並みに香りのお試しに誘われる。「ノー」の返事をしないと全身に振りかけられてしまうこともある。
半分近くを占めている男性用香水売り場は、クリスマス前にもなると人で溢れかえっている。一方、女性用香水売り場では、女性スタッフにアドバイスを受けながら、パートナーへの香りを吟味する紳士も少なくない。
そしてよく見かけるのが『私の今日の香り』を、文字通り頭のてっぺんから爪先まで振りかけているおばさんだ。お試しの量を相当に超えている。日本の香水売り場ではサンプルがコットンに染み込ませてあり、それをそっと嗅ぐ、というのが普通かと思うが、こちらではサンプルボトルが各香水に一つずつ置いてあり、実際好きなだけ好きなところにつけてみることができる。
香水というのはそのものを嗅いだ時と肌に乗った時とは香りが違うものになる。もちろん人それぞれの体温や体臭、そして時間の経過に反応して、さらに香りのバリエーションを広げる。なので、香水は絶対肌につけてみないといけないのだ。
香水には赤ちゃんから馴染むのがヨーロッパ流。赤ちゃん用の石鹸風のもの、アニメキャラクターをボトルにしている子供用、なども揃っている。そしてすれ違い際にとてもいい香りをさせているおばあさん。長年の経験で、香水をどうつけるのか熟知しているのだろう。
ヨーロッパに共通して定着している香水だが、やはりそのトップはフランスだろうか。臭いパリでもいい香りに出会えることが多い。香らせているのに臭いすぎない絶妙さ。思わず振り返ってしまうこともあるほどだ。そしてよくあることは香水の名前を通りすがりに聞かれること。「あなたとってもいい香り。何をつけてるのか聞いてもいいかしら?」という調子に。
音と香りは思い出でもある。大好きだったあの人がつけていた香り、大嫌いなあいつの臭い、など色々なことが蘇ってくる。香水瓶には美しいものが多い。ヨーロッパ旅行の思い出に自分の香りをお土産にしてみては。
writer:Fumi
ドイツ在住、Gourmieオーナー。10代の頃から、フランス、スイス、ドイツ、オーストリアなどヨーロッパ各地に住み、遊学。現在はベルリンを拠点に、スイーツやデリなどのメニュー開発及びケータリングに携わる。2013年から始めた日本文化を気軽に楽しむことができるお料理教室は、ベルリンやウィーンで人気に。趣味は、読書、美術鑑賞、食べること。