HAPPYさがしてヨーロッパ
ぴったりの年越しスタイルをさがして
writer:Fumi
明けましておめでとうございます。年末年始は気がつくとあっという間に過ぎて行き、ちょっとした喪失感すらある一月の半ば。お正月は日本人にとってはもしかすると一年で一番厳かで、華やかで、静かな日々ではないだろうか。
ヨーロッパの人に「日本人はクリスマスを祝うのか」と聞かれるといつも答えるようにしているのが、「日本人はお正月をクリスマスのように過ごす」という例え。年の神様を迎える準備をして門松を飾る様子はクリスマスツリー、数日かかって準備するおせち料理はクリスマスディナー、子供が楽しみにしているお年玉はクリスマスプレゼント、実家で家族と過ごす年末年始はクリスマス休暇のよう、と共通点が多い。
ではヨーロッパの人々は、お正月のない年越しをどう過ごすのか。簡単に答えを言ってしまうと「羽目を外してお祭り騒ぎ」という一言に尽きる。除夜の鐘が鳴り響く厳かさの対極線上にあるような大晦日だ。
私はヨーロッパの色々な都市で年越しをしてみたことがあるのだが、一番酷いのがドイツ、と言ってもいいかもしれない。一年のうちたった三日だけ(十二月二十九日から三十一日まで)解禁される花火がその原因。日本人が夏に楽しむ花火セットなどという可愛らしいものではなく、バズーカ型、爆竹のボックスセットといった過激なものがほとんど。打ち上げるだけならまだしも、タチの悪い場合は人に向かって撃ち合うという始末で、毎年怪我人が出ることが多い。あえて警察に向かって放ったり、路上駐車している車を燃やして花火とする、などということもある。そんな窓の外での戦闘的な様子を見ながら年越しの定番であるラクレットなどを友人と集まって食べる、というのがドイツの標準的なパターンだろうか。
ウィーンの年越しもやはり友人と集まり、持ち寄ったご馳走などを一緒に食べるパーティースタイル。カウントダウンしつつ、ワルツで踊る、というのはとてもオーストリアらしくて私は感動した。新年に「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート」の生中継を観た方もいるのでは。
スイスでは友人と山小屋に集い、一緒にチーズ・フォンデュをつっついて体を温めた後、頭に懐中電灯をつけてみんなでソリで山下り、というスタイルであった。目が覚めて新年を迎えると銀世界が広がり、そこでまず雪合戦というのもなかなか。
スペインではカウントダウンに合わせ三秒おきに十二回、時計台から鐘が鳴り響くのに合わせ、中粒のぶどうを十二粒いただく、という風習を経験した。これがなかなか難しく、5粒目くらいからは早食い選手権のようになってくる。しかし、十二粒見事に食べることができたら幸せな新年を迎えられるということなので、これは一年かけてトレーニングの価値があるかもしれない。
パリではエッフェル塔をバックに、パリ市がなかなか美しい花火を上げてくれる。これを見ることができる場所に住んでいれば、バルコニーなどから花火を眺めつつ、クリスマスから続くご馳走を友人と楽しみながらシャンパンで乾杯。カウントダウンをもっとみんなでお祝いしたいという場合には、シャンゼリゼに繰り出せば良い。お祭り気分の見ず知らずの人と乾杯し、さらにほっぺとほっぺを右と左二回当ててチュッとする「ビズ」をひたすら繰り返すのも面白い。
といった感じでどこも完全にお祭り騒ぎに尽きる、というのがヨーロッパの年越しだ。そのせいか元旦は寝正月というのがほとんど。ちなみに、一月二日は祝日でもなんでもなく、普通に仕事や学校が始まるというのが、なかなかシビアではある。
writer:Fumi
ドイツ在住、Gourmieオーナー。10代の頃から、フランス、スイス、ドイツ、オーストリアなどヨーロッパ各地に住み、遊学。現在はベルリンを拠点に、スイーツやデリなどのメニュー開発及びケータリングに携わる。2013年から始めた日本文化を気軽に楽しむことができるお料理教室は、ベルリンやウィーンで人気に。趣味は、読書、美術鑑賞、食べること。