ハンガリー生活、はじめました
ブショーヤーラーシュのある生活
writer: 本宮じゅん
先月東京では四十八年ぶりの摂氏氷点下四度を記録したというニュースが飛び込んできて、流石にびっくりした。ここハンガリーの首都ブダペストでは最高気温が氷点下の日もありながら、去年の寒さに比べたら割と暖かい日が続いている。ただ、そう思っていたら雪が降ったりするので、まだまだ油断はならない。
そんな中、ハンガリーとクロアチアとの国境近くの街モハーチ(Mohács)で開催されている、寒い冬を終えて春を迎える毎年恒例のお祭り「ブショーヤーラーシュ(Busójárás)」を今年も見学してきた。
ブショーヤーラーシュの起源
ブショーヤーラーシュが開催される時期は、その年によって異なる。というのも、春分以降の満月の次の日曜日(復活祭、イースター)を起点として、その四十日前の木曜日から翌週火曜日まで(謝肉祭の期間)の最後の時期の六日間開催されるからだ。元々はこの地方に住んでいたショカツ族というクロアチア人の民族集団の一派によって伝承されてきたお祭りで、2009年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されている。
冬を追い払うお祭り
写真のように、大きな目と角とニッと歯を見せながら笑っているのが特徴のお面を付け、羊の毛皮で作られた衣装をまとっているのが「ブショー」。カンカンと鳴る金属製のベルや、ちょっとイラっとする音を立てる木製のおもちゃのような楽器をぐるぐる回して大きな音を鳴らしながら、街中を練り歩く。お供には、ハンガリー刺繍やレースが施された民族衣装に仮面を付けた若い美女たち。
お祭りの間、ブショーたちは女性に対していたずらすることが容認されているとのことで、それは観光客に対しても容赦ない。初めて訪れた際も突然近づいてきたブショーに抱きかかえられて、さらに髪にぐしゃぐしゃと小麦粉をかけられ、もう恐怖で気が気でなかったのだが、そばにいた女性に「あなたこれから良いことあるわよ」と言われてちょっと救われた。それから何か良いことが起こった時は、ブショーのおかげだと勝手に解釈している。
春はもうすぐ
お祭りのクライマックスは重要なイベントが盛りだくさんの日曜日。たくさんのブショーたちがドナウ川の対岸から船に乗ってきてやってきて、街中を行進する。日曜日ということもあって世界中から何万人もの観光客が押し寄せ、街はまるで初詣の神社状態となる。普段は静かなのだが、この時期だけ人でいっぱいになるようだ。
初めて訪れた際は現地在住の友人も含めて五人で行ったのだが、あまりの大混雑ぶりに一人が迷子になって大変だった。そして、年を追うごとに訪れる人々の数はどんどん増えているようだ。なので、翌年以降はクライマックスを過ぎ、かつ平日である最終日の火曜日に訪れるようにしている。
狙い目は最終日である火曜日
最終日の火曜日にはパレード後の夕刻より中央の大きな広場でかがり火が焚かれる。運ばれてきた棺などが燃やされ、これによって冬を追い出すという意味合いがあるという。この炎を見ていると、寒さが続くのもあと少しで、やがて春がやって来るという実感がどんどん増してくる。
それにしてもこのブショーの姿、見れば見るほど秋田の「なまはげ」にそっくりだし、ブルガリアなど近隣諸国にも同じようなお祭りがあるとのこと。その意味合いは多少違うとしても、さすがに共通点を感じざるをえない。距離的にはこんなに離れているハンガリーと日本、歴史をひも解いていけば意外に多くの共通起源があるのではないと、気になって仕方ない毎日を過ごしている。
writer:本宮じゅん
2016年7月末にハンガリーのブダペストに移住したばかりの新米ライター。大学在学中に1年間ドイツのライプツィヒ大学に交換留学し、卒業後は外資系化粧品メーカー・広告代理店・外食産業と、業界が違いながらも通算14年近くマーケティング業務に携わった後、ハンガリーのブダペストへ。趣味は料理、街歩き、街歩きのついでに飲むビール。