HAPPYさがしてヨーロッパ
健康な食生活をさがして
writer:Fumi
日本で桜が満開になっている頃、ベルリンでは雪が舞っていた。三月の最終日曜日には夏時間が戻ってくるのだが、春が来るのはもう少しお預けのよう。
外の様子を窓越しに見ることが多くなったのは、最近病院にお世話になる機会があったから。暖房の効いた部屋で温かいお茶をすすっている分には、外でヒョウが降ろうとあられが降ろうと構わない。逆に太陽がさんさんとしているのに引きこもりは悲しい。早寝早起きで、ある意味至れり尽くせりの病院生活もそう悪くはないが、一つだけどうしても馴染めなかったのが病院での食生活だった。
時間帯は健康そのもの
六時半に朝ごはん、正午に昼ごはん、五時半に夕ごはん。日本の病院もほぼ同じかと思うが、健康に生きるおばあちゃんの時間帯そのものだ。スペイン人のように夜の十時に夕飯を食べて、消化を待たずして就寝する生活はしていなかったので、これはまだいいとしよう。
疑問のわく献立
まだあまり意識がはっきりしないところへ運ばれて来た朝ごはん。一応、「アレルギーなどで食べられないものはありますか」と聞いてはくれるものの、「ヴィーガンだ」などと答えた日には食べるものがなくなってしまう。ハムもチーズも食べる習慣のない私に残された選択はこの通り。
病人がこんなにヌガークリームを食べたら違う病気になるのでは、という不安に駆られる。せめてぶどう一粒でもいいから果物が出てきてほしかった。
昼ごはん、動ける余裕のある患者はカフェテリアへ赴く。ランチビュッフェでセルフサービスの他に、本日のメニューが三種類用意されている。
この日はベルリンの名物カリーヴルスト(油で軽く揚げたようなソーセージに、カレー粉とケチャップをかけていただく)が登場した。病人も驚くジャンクフードの代表。横の人が食べていたヴェジタリアンメニューを見ると、ラビオリのようなものにがっつりとクリームソースがかかっていた。
昼に摂った高カロリーで意識が朦朧としているうちに、やたらと早めの夕ごはんが運ばれてくる。ドイツ人は夕飯に温かいものを食べない、という人が多いことは知っていたが、この夕飯がまさにそれだった。
パンも決して焼きたてではなく、一週間以上保存の効く黒パン。朝ごはんでも見かけた気がするハムとチーズ。パンが一枚に対して確実に多すぎるバター。そして生にんじんの細切りサラダ。消灯が十時ということで確かに消化は良さそうではあるが、昼ごはんとの差が大きすぎてなんだか笑えてきた。どれも食欲を全くそそることなく、私はこの夜ゼロカロリーで就寝となった。
このサイクルが数日続くと、不思議なことに食べる欲求そのものがなんだかなくなってきた。それが医者たちの狙いだった、ということはないだろうが、見事にドイツ人の食生活を反映してくれた病院の食事。「ああ、懐かしい」と今後思うことの無いように、健康な毎日を送りたいと思う。
writer:Fumi
ドイツ在住、Gourmieオーナー。10代の頃から、フランス、スイス、ドイツ、オーストリアなどヨーロッパ各地に住み、遊学。現在はベルリンを拠点に、スイーツやデリなどのメニュー開発及びケータリングに携わる。2013年から始めた日本文化を気軽に楽しむことができるお料理教室は、ベルリンやウィーンで人気に。趣味は、読書、美術鑑賞、食べること。