ハンガリー生活、はじめました
パプリカのある生活
writer:本宮じゅん
ハンガリー料理にはパプリカが欠かせない、というのは日本にいる時から聞いてはいたけれど、ブダペストに住み始めて三ヶ月もするうちに、私の生活にとってもパプリカは欠かせない存在になっていた。
市場でパプリカを
私が通っているハンガリー語の語学学校は、ブダペスト観光の主要スポットにもなっている『中央市場』の近く。授業が終わるとまっすぐに向かって、習いたてのハンガリー語で店員さんと会話を交わしながら、日々の食材を調達している。季節によって少しずつ品揃えが変化している野菜・果物売り場でも、山積みにされた色とりどりのパプリカはいつも目を和ませてくれる。
甘い味の品種の中から、赤、緑、黄色、白と数種類のパプリカを選んで買う。色が多いと料理の仕上がりの見た目も華やかになる。生のままスライスしてスティックサラダにすることもあるし、焼いたり炒めたり調理することもある。熱を加えると甘みが増してグンと美味しくなり、ただオーブンで焼いただけでも絶品の一皿になる。
毎週土曜日は、ドナウ川西岸のブダ地域で開かれる『ビオピアツ』という有機食品市場まで足を運ぶ。さすがにどの商品も価格は若干高めだ。でもここで買うパプリカは、普段食べるものよりもどこか味が濃い感じがする(気のせいかもしれないけれど)。それにしても味、大きさ、形、色とさまざまなバリエーションがあって、ひとつひとつ手にとっても個性が見えてくるようだ。わざと面白い形や色をしているものを買うことが、週末のちょっとした楽しみになっている。
パプリカ粉とハンガリー料理
市場で目にするのは生のパプリカだけでなく、お土産物コーナーにはパプリカ粉も豊富に並んでいる。もちろんパプリカ粉はスーパーでも棚いっぱいに売られていて、価格もずっと安い。ただ、やはりお土産用のものはどれもパッケージがかわいらしく、コレクションしたくなるくらいだ。
伝統的なハンガリー料理の代表格『グヤーシュ』は、パプリカ粉をたっぷり使ってお肉や野菜と一緒にじっくり煮込んだスープ。日本の家庭料理においてのお味噌汁のような存在で、家庭やお店ごとに味が異なるという。グヤーシュ好きの友人の影響を受けて、私も初めて訪れるレストランでは必ず注文するようにしている。どのお店のものも、それぞれの美味しさがあってなかなかベストを決められない。
パプリカ粉を使ったスープでもうひとつ、『ハラースレー』という魚のスープがある。海に面していないハンガリーでは、ドナウ川やティサ川で獲れる淡水魚が料理に使われている。ハラースレーには、鯉(コイ)やナマズなどをぶつ切りにしたものがゴロゴロ入っている。魚の出汁の旨味がしっかり効いていて、日本人の味覚にもぴったりな美味しさだ。
ちなみに、レストランではグヤーシュにもハラースレーにも辛パプリカのスライスやペーストが添えられて、途中で少しずつ加えながら味の変化を楽しむこともできる。ハンガリーに来たばかりの頃は、できるだけ辛パプリカを避けていた。市場でも、甘い味のものか必ず確認してから買っていた。でも、試しているうちにその刺激にも慣れてくるもので、最近では辛パプリカがないと落ち着かないくらいだ。自宅にも瓶詰めのペーストを常備していて、スープにラーメンにパスタにと、独自の使い方を楽しんでいる。
パプリカとビタミンC
実は、ビタミンCの発見でノーベル賞を受賞したセント=ジェルジ・アルベルトはハンガリー出身。南部の街セゲドの大学で研究していた頃に、その地の名産のパプリカから発見したといわれている。さらに、パプリカに含まれるビタミンCは加熱しても壊れにくいことも判明した。そう考えると、パプリカは健康や美容にも嬉しい食材でもある。
そういえば、日本では長年肌荒れに悩まされ続けていた私も、ハンガリーでの生活を始めてからは、びっくりするくらい調子が良い。こんなに乾燥した気候であるにもかかわらずだ。基礎化粧品も全く変えていない。 もしかしたら、毎日ほとんど欠かさず口にしているパプリカのおかげなのかもしれない。なんて勝手に思い込んでいる。
writer:本宮じゅん
2016年7月末にハンガリーのブダペストに移住したばかりの新米ライター。大学在学中に1年間ドイツのライプツィヒ大学に交換留学し、卒業後は外資系化粧品メーカー・広告代理店・外食産業と、業界が違いながらも通算14年近くマーケティング業務に携わった後、ハンガリーのブダペストへ。趣味は料理、街歩き、街歩きのついでに飲むビール。
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