ハンガリー生活、はじめました
フォアグラのある生活
writer:本宮じゅん
改めて思い返してみても、私がハンガリーでの生活を始めるという決意に大きく背中を押してくれたのは、フォアグラだったかもしれない。2015年9月、初めてハンガリーを訪れた旅行で、私は「人生を変えたフォアグラ」に出逢った。
それは、ブダペストの中心地にある「コム・シェ・ソワ(Comme chez soi)」という地中海料理レストランでのことだった。甘い香りとともに、フォアグラのグリルが豪快にフライパンごと目の前にやってきた。その時の衝撃と感激は、一年半経った今でも鮮明に憶えている。こんなに大きく、こんなにボリュームたっぷりのフォアグラを、私は初めて見たのだった。
衝撃と感激は続く。アツアツで大ぶりのフォアグラは、一緒にフライパンの中で加熱されていたリンゴのソテーとともに、予めサーブされていたマッシュポテトに乗せられた。その盛り付けの豪快ながらも繊細な美しさに、思わず見とれてしまったのだった。
そして、最初の一口を口に入れた瞬間、衝撃と感激は最高潮に達した。遠慮がちに小さめにカットしたものの、それだけで濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。あまりの美味しさに、心臓の高鳴りも加速した。私なんかが、こんなに幸せになって良いのだろうか。舌でゆっくり味わいながら、今までの自分自身の至らなさを深く反省した。これからお世話になっている周りの人々にできる限り恩返ししていこう、優しく接していこう、そう心に誓った。そうでもしないと値しないかもしれないと思うくらい、極上の体験だった。まさに、人生を変えた瞬間だった。
というわけで、その約十一ヶ月後、私はハンガリー・ブダペストでの生活を始めた。またあのフォアグラに出逢うために・・・・・・なんて、もちろんほかの理由もたくさんあったからなのだけど。
ところで、ハンガリーはフォアグラの名産国でもある。生産量ではフランスに次いで世界第二位にランクイン。実際「フランス産」と記載してあるフォアグラの半分以上は、ハンガリーで飼育されたアヒルやガチョウを輸入して取られたとのことで、実質上はハンガリーが世界第一位という考え方もあるようだ。街中の多くのハンガリー料理レストランには、必ずといってもよいほど、 メニューにフォアグラがある。メインだけでなく、前菜としても気軽に味わえるのが嬉しい。しかも価格もかなりリーズナブルだ。先述の「コム・シェ・ソワ(Comme chez soi)」のフォアグラのグリルは、フライパン丸ごとリンゴのソテーとマッシュポテトも付いて日本円にして約2,800円(※2017年3月現在)。そのうえ、三人でシェアしてちょうどよいくらいのボリューム。心ゆくまで堪能できるのだ。
さらにリーズナブルにかつ美味しくフォアグラを楽しめる方法として、ハンガリー料理に詳しい友人に家庭での調理法を教えていただけることになった。市場で新鮮な生のフォアグラを塊のまま買ってきて、ホームパーティーを開催。ちなみにその時、約700gで日本円にして約2,000円だった。うち半分くらいを1センチメートル幅にスライスしてフライパンへ。
適当なタイミングで甘口のトカイワインを注ぎ入れ、アルコールの力で特有の臭みを消した。フォアグラからにじみ出る油を利用して、スライスした黄桃も一緒にソテー。キッチン中が甘い香りと煙に包まれたので、玄関のドアまで全開にして調理を続けた。 友人の的確なレクチャーのおかげで、自分で作ったとは思えないくらい素晴らしい出来栄えとなった。四人で思う存分いただいて、残った分は後日フォアグラリゾットにした。そして、その後しばらくの間もキッチン中にフォアグラの香りは充満しており、余韻に浸り続けることができた。
五月にもフォアグラがメインのホームパーティーを企画している。友人たちとともに過ごす贅沢なひとときを、今から心待ちにしている。
コム・シェ・ソワ(Comme chez soi)
1051 Budapest, Aranykéz utca 2. Hungary
+36-1-318-3943
営業時間:12:00~0:00 (日曜定休)
writer:本宮じゅん
2016年7月末にハンガリーのブダペストに移住したばかりの新米ライター。大学在学中に1年間ドイツのライプツィヒ大学に交換留学し、卒業後は外資系化粧品メーカー・広告代理店・外食産業と、業界が違いながらも通算14年近くマーケティング業務に携わった後、ハンガリーのブダペストへ。趣味は料理、街歩き、街歩きのついでに飲むビール。
blog:ドナウの東か、遥かもっと東から
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