ほんのかくし味
桜の花にあこがれて
2016.03.31
writer:豊田希
桜に力をもらい、桜に夢見る
長い冬の寒さにはもう飽き飽き・・・というころ、南の方から桜の便りが届く。桜というその響きに、私達のココロは踊る。まるで幼きころに夢中になったテレビアニメで流れた、初恋のシーンのBGMのように。
冬が終わり春が来る。その象徴が桜だ。大学入試における合格通知の電報文言が「サクラサク」であるのは有名な話だが、たった5文字が伝える、完璧なノンフィクションサクセスストーリー。だれが考えたのか知らないが、すばらしいセンスである。
花一輪の儚げな美しさも、満開となった堂々たる迫力も、桜には非の打ち所がない。そんな桜に力をもらって、社会という、そして人生という荒波を生きる。日本人のDNAには『4月。桜でパワーチャージ』という項目がプログラミングされているのかもしれない。
桜といえば・・・
桜餅!というのは、根っからの「花より団子」なお菓子オタクの発想か。でもやはり春にコレを食べないと忘れ物をした気分になる。
桜餅には関東風と関西風があるのはもはやおなじみ。クレープのように焼き上げた白玉粉入りの生地であんを巻いた関東風と、蒸したもち米を乾燥させた古来の保存食、道明寺粉であんを包んだ関西風。いずれも美しく、そして風流で雅な気分へと誘ってくれる。
最近では、桜の花や葉の塩漬けを簡単に買えるようになった。私の料理教室でも関東風の桜餅をご紹介しているが、あまりの簡単さに歓声があがる。ぜひみなさまにも試して頂きたい。
関東風桜餅 5個分
【生地】 白玉粉 3g 水 80cc 砂糖 10g 薄力粉 35g 食用色粉 ごく少々
【あん】 市販のこしあん 40g×5個(俵型に成形しておく)
桜の花、桜の葉の塩漬け 各5枚(ぬるま湯に30分浸して塩抜きする)
- 生地を作る。白玉粉に分量の水を少しずつ加えながらダマを潰し、なめらかにする。
- 砂糖とふるった薄力粉を加えてよく混ぜ、ラップをかけて冷蔵庫で1時間休ませる。
- ごく少々の食用色粉を生地に加えて薄紅色に染める。
- サラダ油(分量外)をなじませたフライパンに12cm×7cmの小判型に生地を流す。生地の表面が乾燥したら裏返し、焼き色をつけないように両面を焼く。
- 冷ました生地であんを巻き、桜の花を餅に飾り、桜の葉で巻く。
桜とお菓子に恋をして
自作の春の洋菓子には桜からインスピレーションを得たものが多い。春においしい苺などのベリー類を使ったお菓子や、軽やかな印象のお菓子をいくつも作ってきたが、その発想の根本にはいつも桜がある。
桜の枝に舞う蝶や、柳の新芽の間を舞い踊る花びら。いずれも瞬間を切り取った写真のイメージで生まれたお菓子だ。桜のドラマチックな美しさと、食べてなくなってしまうその瞬間の口福には、共通する儚さを感じるのだ。
桜舞うお菓子の時間のほんのかくし味。
victor69 / 123RF 写真素材日本人はなぜこれほどまでに桜に魅せられるのか。花としての美しさやゴージャスさはもちろん人々惹きつけて止まない。だが、本当の理由は・・・?
いわば桜への憧れか。透けるように薄い花びらの儚げな花が、冬の寒さを堪え忍びながら蕾をほころばせ、冬の終わりを「いの一番」に知らせる春の使者。そして、耐えて耐えてようやく咲いて、あろうことか散る間際が一番美しい。美学といわえるその潔さはまさに武士道の精神だそうだが、でもそんな小難しいことはさておき。
散るそのときまで、いちばん美しく生きたい
散るそのときこそ、いちばん美しくありたい
桜を愛でながらのお茶の時間。 年に一度くらい、自身の生き方の美学を桜に学ぶというのも悪くない。
writer:豊田希
勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。