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ほんのかくし味

ほんのかくし味

勝負料理研究家 豊田希が綴る、食にまつわる世界各国のエピソード。私たちが普段口にしている和食や伝統行事のルーツ、パリ愛好家の彼女が見たフランスの食文化などを、美味しく説明します。

会いたい想いが叶う夜

2016.07.01

会いたい想いが叶う夜

自分を織り姫だとしよう。彦星は愛しい誰かか、懐かしい土地か、久しく食べていないあの美味か。2016年、私にとっては愛する街パリが再会を果たした愛する彦星だった。パリの風景や七夕の歴史をご紹介します。

あじさいの咲くころに。

2016.06.01

あじさいの咲くころに。

そろそろ日焼けが気になる時期。外からの紫外線対策も大事だけれど、体の内側からも紫外線対策をしたいもの。紫外線対策効果のある食材を使った『すりおろしにんじんドレッシング』のレシピをご紹介します。

母の日 - 世界にひとりだけのあなたに。

2016.04.27

母の日 - 世界にひとりだけのあなたに。

桜が終わり新緑の時期を迎えるともうすぐ母の日。アメリカでもフランスでも、母の日制定の陰には戦争があった。一方日本では、またしてもお菓子業界の力が働いて…。各国の母の日の歴史や過ごし方をご紹介します。

桜の花にあこがれて

2016.03.31

桜の花にあこがれて

日本人はなぜこれほどまでに桜に魅せられるのか。 年に一度くらい自身の生き方の美学を、桜の美しさと儚さに学ぶというのも悪くない。桜と言えば「桜餅」という筆者が教える、関東風自家製桜餅のレシピもご紹介します。

ひなまつり 平安の世から現代まで変わらぬ願い

2016.03.01

ひな人形

ひなまつりにひな人形を飾り、菱餅・白酒(甘酒)・蛤のすまし汁・ちらし寿司・ひなあられなどを供え、健康と平穏な毎日を願う。ひなまつりの歴史やひなまつりならではの食のルーツをご紹介します。

St.Valentine's Day それは愛の一日

2016.02.03

フランスのバレンタインデー

愛の国フランス・パリのバレンタインデーは、チョコレートをあげるだけの日本と異なり、とても特別な一日となる。ローマ帝国時代まで遡るバレンタインの起源とは。バレンタインとチョコレートの甘い関係に迫ります。

会いたい想いが叶う夜

織姫と彦星

nroytmanphotography / 123RF 写真素材

雨の匂いがパリには似合う

雨が降ってほしいところに降らず、降らないでほしいところに降る。今年の梅雨は、ツンデレだ。

6月後半、早めの夏休みをとり、フランス・パリへ行ってきた。ただでさえ気まぐれな地中海性気候に加え、昨今の異常気象。6月初旬にはヨーロッパ中で降り注いだ豪雨の影響で、パリの真ん中を流れるセーヌ川があわや氾濫か、という報道が日本でもなされたので、記憶されている方もおられるだろう。 パリ

パリに到着し、最初の1杯をと入ったカフェにて隣同士となったマダムと、最近のパリの話をする。英国のEU離脱関連のニュースの前だったので、ISのテロの影響で日本人観光客が少ない話に始まり、お天気の話に花が咲いた。

世界一の観光都市であるパリ。美しい街を流れるセーヌ川クルーズには、乗船されたことのある方も多いと思うが、川の増水の影響で船が橋をくぐれず、クルーズは運休(現在は復旧済み)していたり、傘が手放せない不安定な天気が連日続く。しかも、6月の半ばだというのに上着が手放せない寒さ。

初夏のさわやかな風を感じることはできないのか…と、残念な思いも過ぎるが、そこはさすがの美しき古都。雨に濡れた石畳やマロニエの木々のつややかさ。どんよりとした空の下で眺める、花屋の店先に生けられた花の美しさ。ノーブルなバラとゴージャスなシャクヤク、そして可憐なアジサイの見事なことといったら…。 アジサイ

そしてもうひとつ。街中のカフェやパン屋の匂い、そして歴史の香りを吸い上げて、パリを包み込む雨の匂い。それは他では感じたことがない、上質なヴィンテージワインのコルクから立ち上るような香りだった。

そして七夕が近づいた

私は東京生まれ東京育ちのアラフォーだが、抜ける様な青空に恵まれた七夕というのは、ほとんど記憶がない。それもそのはず、東京の7月7日は大抵梅雨の折り返し時だ。そのためか、七夕というのはついつい忘れてしまう歳時記のひとつだ。しかし、願いを書いた短冊を笹の葉に下げて、星に願い事をするなんて、なんて美しい風習かと、改めて感じる。 七夕

七夕は、奈良時代には『棚機』と書き、日本の五大節句(季節の節目の意味)のひとつとして、無病息災、子孫繁栄、豊作などを神に願う重要な宮中行事を執り行う日とされていた。そもそもこの『棚機』は、乙女が着物を織って神棚に供え、秋の豊作を祈ったり、人々のけがれを祓うというものだった。

この行事と中国の古くからの神話が由来となり、平安時代に、かの有名な『織り姫と彦星の伝説』は広まることとなる。彦星は、琴座のベガ(織り姫)と、農業を司る星といわれる鷲座のアルタイル(彦星)が、この旧暦7月7日に天の川を挟んで最も光り輝いて見えることから、この日を一年に一度のめぐり会いの日と考えるようになった。そして江戸時代には、庶民の間にも広まり、人々は野菜や果物を供えたり、詩歌や習い事の上達などの願い事を書いた短冊を笹に吊るし、星に祈るお祭りとして浸透したといわれる。

笹や竹は、常緑で真っ直ぐに育ち生命力にあふれることから、昔から神聖な植物として、神を宿すともいわれている。地域によっては、この笹や竹を川や海に飾りごと流す風習があるが、これもけがれを流してもらうという願いを込めた慣習といわれている。

七夕の食は、アレだった

節句には、その行事食ともいわれる『つきもの』が必ずある。1月1日はおせち料理、3月3日は桜餅、5月5日は柏餅。では7月7日は…。暑さ厳しいこの時期、ぜひ『生ビール』と言いたいところだが、それと同じく夏の食の代名詞といえば、思いつく方もいるだろう。

おもてなし素麺
おもてなし素麺
                                       

素麺である。平安時代には、その原型の索餅(さくへい)といわれるお菓子が食べられており、これはかりんとうのようなお菓子であったと云われている。現在、素麺が七夕の行事食としての馴染みが薄い理由。それは、夏の食べ物として、あまりにも「普通」だから、とかなんとか…。まさかこんなオチがあるとはね。

こちらの写真でご紹介したのは、私の夏の定番『おもてなし素麺』。素麺と薬味だけではなく、うなぎの蒲焼きや牛のしゃぶしゃぶ、素揚げの茄子や南瓜、温泉卵などを彩り美しく盛り付けた一品だ。食欲の湧かない暑い日も、見た目にも楽しいこんなテクニックをぜひ身につけていただきたい。作らなくてもいい。たとえ買ってきたものでも美しくしつらえた食卓は、かならず明日への活力となる。

七夕のほんのかくし味。

自分自身を織り姫だとしよう。彦星は、愛しい誰かかもしれないし、懐かしい土地かもしれない。久しく食べていないあの美味、という方もいるだろう。

2016年。私にとっては愛する街、パリこそが少し早めの再会を果たした愛する彦星だった。久々に再会した彦星は、時代の流れの中で暴力にさらされたり、圧倒的な自然のパワーに翻弄されていたが、それでもやはり変わらずに愛しい街だ。

いつでも、いくつになっても、再会したいという想いは、あなたをワクワクさせるはずだ。織り姫と彦星の伝説のように。

あじさいの咲くころに。

2016.06.01
writer:豊田希

あじさい

suchi187 / 123RF 写真素材

新緑のころが過ぎ、雨の季節がやってくる

緑が美しいこの季節、陽射しを受けてキラキラ輝く木の葉は、見た者の心に力強いエネルギーを与えてくれる。しかし、いつの頃からだろう。『いい時期』が短いと感じるようになったのは…。暑さが増すだけでなく、雨と湿気に悩まされることも多くなる。さらっとさわやかな5月とは真逆の煩わしさだ。

ただひとついいこと。それは電車の車窓に映える、雨に濡れたあじさいの美しさ。あじさいは、日本最古の和歌集である万葉集にも、その美しさを謳われた花。土壌の酸性度によって色を変えていくこの花のドラマチックさは昔も今も変わらない。

花の色が変わるのは美しいけれど…

日焼けが気になる時期

pongmoji / 123RF 写真素材

われわれ人間にとっては、そろそろ日焼けが気になる時期だ。真夏と、春から初夏にかけての紫外線量を比較すると、圧倒的に春から夏にかけての方が多いのは今や常識。百貨店の化粧品売り場もドラッグストアも、UV対策商品がまさに百花繚乱。

昔は日焼け止めなんてショーケースの端に、申し訳なさそうにおいてあるだけだった。「せっかくの夏に日焼け止めだなんてどうかしてるゼっ」時代は遠い昔話で、中学生の夏に紫外線アレルギーを発症した私にとっては、あれよあれよという間に選択肢が増えた時代の変化に驚いたほどだ。サザンオールスターズの歌で「太陽は罪な奴」という歌があるが、美容の観点からみたら『罪』の意味が大きく変わった20年なのかもしれない。

男性諸君にも告ぐ?!

クロード・モネ 日傘の女
クロード・モネ『日傘の女』

今年の夏の天気予測が報じられると、各百貨店やネット上でも多くの紫外線対策商品や猛暑対策商品の売上が急上昇する。特にサングラスや日傘、帽子などは、『UV加工』のひとことでおもしろいほど売れ、売上記録を何年も更新し続けているというデータもあるとか。

最近では男性用の日傘も需要が増え、街中で日傘をさす男性を見かけることも増えてきた。女性にとっては今や当然と思われる紫外線対策だが、男性にとっても健康維持に欠かすことのできないものとして定着する日が近いのかもしれない。

おいしく紫外線対策したい!

外からの紫外線対策も大事だけれど、体の内側からも紫外線対策をしたいものだ。浴びてしまった紫外線をなかったことにするのは難しくても、紫外線に強い体にすることは、今日からできる。ここでまとめておこう。効果的な紫外線対策として、ぜひ食べていただきたい。

  • 紫外線を受けた肌の深部でシミやソバカスの原因となるメラニン色素が生成されるのを防ぐビタミンC:トマト、ブロッコリ-、パプリカ、くだもの類
  • 肌の老化や肌荒れを防ぐ効果が期待できるβ-カロテンやビタミンE:にんじん、かぼちゃ、しそ、バジルなどの緑黄色野菜(β-カロテン)、ナッツ、アボカド、うなぎ、魚卵類(ビタミンE) 
  • 肌の新陳代謝を促進するビタミンB2:牛豚鶏レバー、うなぎ、納豆、卵、乳製品

これらを念頭に、ビタミンCやβ-カロテン、ビタミンEをたくさんとることができる超簡単万能だれをご紹介しよう。サラダはもちろん、肉料理やシーフードにそのまま使えるので常備しておきたい。

すりおろしにんじんドレッシングサラダ
トマト、アボカド、葉野菜とクルミのすりおろしにんじんドレッシングサラダ

すりおろしにんじんドレッシング

【材料】 にんじん 1本分 にんにく、生姜 各1片 好みのナッツ 大さじ2杯
レモン果汁 1個分 EXバージンオリーヴ油 大さじ4杯 砂糖 大さじ1.5
塩、胡椒 少々(好みでカレー粉、マスタード、わさびを加えてもよい)

  1. にんにく生姜をみじん切りにし、サラダ油(分量外)で香りが立つまで炒める。
  2. 1とそれ以外の食材をすべてミキサーに入れ、なめらかになるまで撹拌する。

【保存】 冷蔵庫で3~4日、冷凍庫で1週間ほど。冷蔵庫で解凍すること。

紫外線対策のほんのかくし味。

デメリットばかりが着目される紫外線だが、当然われわれにうれしい効果もある。紫外線を浴び、体内でビタミンDが合成されることによって、骨が形成され、骨粗鬆症の予防にもなるし、免疫力を高める効果も確認されている。

空に太陽がある限り、上手につきあっていけばいいということ。
そしておいしく楽しくつきあうことが長続きの秘訣であるということ。

「カラダにいいことをした」という気持ちの健康で、さらに美しくなってやろうではありませんか。

豊田希

writer:豊田希

勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。

HP:Studio CREATABLE / クックパッド料理教室

母の日 - 世界にひとりだけのあなたに。

2016.04.27
writer:豊田希

このたびの『平成28年熊本地震』により被災されたみなさま、そのご家族ご関係者のみなさまに心よりお見舞い申し上げます。みなさまのご安全と一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

料理研究家 豊田希

 

新緑と出逢うころ

新緑

桜が終わり、新緑の時期を迎えた。華やかな桜並木散歩を楽しんだ後は、みずみずしく輝くけやき並木やいちょう並木散歩が、空の青さに映える。

この春の恵みを感じるころ、まもなく母の日である。5月の第2日曜である5月8日は、春の大型連休最終日だ。私にとっては、母の誕生日でもある。「母の日と誕生日は別の日がいいのに…」と、ぼそっと私に聞こえるように言う母の声が、妄想の脳裏にちらつく。「そんなこと言わせるものかっ!」とこちらもムキになって演出をひねり、すでに少し頭が痛い。でもまぁ、仕方がないか。母がいなければ、自分は存在しないのだから。

母の日とは…

カーネーション

1907年アメリカ、ウェストヴァージニア州。南北戦争中に敵味方問わず負傷兵の衛生状態を改善するために地域の女性を結束させた、とある女性を追悼する集会で、彼女の娘が、母への感謝と尊敬のしるしとして、母が好きだった赤いカーネーションを参列者に配った、というのが最もよく知られている『母の日』の起源だ。

このエピソードはアメリカ全土へと広がり、1914年に5月第2日曜日を『母の日』とアメリカ議会は制定。アメリカでは母が存命している者は赤いカーネーションを、見送った者は白いカーネーションを胸につけて母の日礼拝に参列するという慣習ができた。

日本の母の日とスウィーツの甘い関係

母の日のスウィーツ

日本では、1913年、アメリカ人の女性宣教師達の熱心な働きかけにより、教会で母の日礼拝が催されるようになった。そして1937年、東京の製菓会社がそれに目をつけ、多くの菓子店の協力のもと『母の日大会』というイベントが恒例行事となり、いよいよ母の日は日本中に定着していった。母の日大会では、遊園地への招待券やお菓子の福引き券が配られたという。母への感謝にスウィーツはマストアイテムとなったわけだ。

母の日のカーネーション

日本でも母の日の代名詞であるカーネーションは、色によって異なる花言葉も、それぞれ母性愛に満ちている。

赤は真実の愛を。
白は尊敬を。
ピンクは感謝を。

普段は照れくさくて言えない気持ちを、花言葉に託して贈るというのもステキだ。

フランス・母の日事情

母親は『la mere』(ラ・メル)。そして、同じ韻でとても大事な存在を指すことば - それは海『la mer』(ラ・メル)だ。「命の源は海であり母である」という考え方が根付いているフランスでも、『母の日』はとても大事な行事の一つだ。

1918年、第一次世界大戦の渦中、アメリカ人の風習のひとつとして、母の日はフランスに入ってきた。戦後の人口回復のために母という存在を讃えることを目的として、フランスでも5月最終日曜日を母の日と制定されたという。アメリカでもフランスでも、母の日制定の陰に、戦争があったというのは何とも皮肉な話に思える。

すずらん

funlovingvolvo / 123RF 写真素材

フランスの母の日は、祝い方も違う。フランスでは、なにかを贈るという風習はあまりなく、一緒に食事やお茶をして時間を共有することや、遠方の場合はカードを贈ったり電話をするというのが主なスタイルだ。加えて言えば、フランスでは5月1日に大切な人へスズランを贈るという風習があるため、スズランのモチーフの品を母の日に贈るという人も少なくない。

すずらんモチーフのケーキ

清楚で可憐なスズランは大好きな花のひとつだ。年によっては、スズランのモチーフのケーキを母に贈ることも。

母の日のほんのかくし味…いや母の日にはちゃんと言葉を

私の好きな母の日の賛美歌の一節を紹介したい。

幻の影を追いて浮き世にさまよい
移ろう花に誘われゆく汝が身の儚さ
春は軒の雨
秋は庭の露
母は涙乾く間なく
祈ると知らずや

<私訳>
この世の快楽を追い求めて
美しいものに誘惑されるあなたの危うさを案じ
春は軒先からしたたり落ちる雨のように
秋は庭の葉につく露のように
母は涙が乾くときもないほどに
神様に祈り続けているのですよ

賛美歌510番『まぼろしのかげをおいて』

世界中で愛されているこの賛美歌を、子供のころは意味もわからずに歌っていた。意味を理解したとき、母の愛の大きさを感じ涙が滲んだのを覚えている。

日本中が悲しみと自然の脅威に不安を抱えているいま。ちゃんと伝えてほしい。母に触れることができようとできまいと、その愛はかつての戦後復興の大きな原動力になるほどに強いものなのだから。

豊田希

writer:豊田希

勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。

HP:Studio CREATABLE / クックパッド料理教室

桜の花にあこがれて

2016.03.31
writer:豊田希

桜 seaonweb / 123RF 写真素材

桜に力をもらい、桜に夢見る

長い冬の寒さにはもう飽き飽き・・・というころ、南の方から桜の便りが届く。桜というその響きに、私達のココロは踊る。まるで幼きころに夢中になったテレビアニメで流れた、初恋のシーンのBGMのように。

冬が終わり春が来る。その象徴が桜だ。大学入試における合格通知の電報文言が「サクラサク」であるのは有名な話だが、たった5文字が伝える、完璧なノンフィクションサクセスストーリー。だれが考えたのか知らないが、すばらしいセンスである。

花一輪の儚げな美しさも、満開となった堂々たる迫力も、桜には非の打ち所がない。そんな桜に力をもらって、社会という、そして人生という荒波を生きる。日本人のDNAには『4月。桜でパワーチャージ』という項目がプログラミングされているのかもしれない。

桜といえば・・・

桜餅

桜餅!というのは、根っからの「花より団子」なお菓子オタクの発想か。でもやはり春にコレを食べないと忘れ物をした気分になる。

桜餅には関東風と関西風があるのはもはやおなじみ。クレープのように焼き上げた白玉粉入りの生地であんを巻いた関東風と、蒸したもち米を乾燥させた古来の保存食、道明寺粉であんを包んだ関西風。いずれも美しく、そして風流で雅な気分へと誘ってくれる。

最近では、桜の花や葉の塩漬けを簡単に買えるようになった。私の料理教室でも関東風の桜餅をご紹介しているが、あまりの簡単さに歓声があがる。ぜひみなさまにも試して頂きたい。

関東風桜餅 5個分

【生地】 白玉粉 3g 水 80cc 砂糖 10g 薄力粉 35g 食用色粉 ごく少々
【あん】 市販のこしあん 40g×5個(俵型に成形しておく)
     桜の花、桜の葉の塩漬け 各5枚(ぬるま湯に30分浸して塩抜きする)

  1. 生地を作る。白玉粉に分量の水を少しずつ加えながらダマを潰し、なめらかにする。
  2. 砂糖とふるった薄力粉を加えてよく混ぜ、ラップをかけて冷蔵庫で1時間休ませる。
  3. ごく少々の食用色粉を生地に加えて薄紅色に染める。
  4. サラダ油(分量外)をなじませたフライパンに12cm×7cmの小判型に生地を流す。生地の表面が乾燥したら裏返し、焼き色をつけないように両面を焼く。
  5. 冷ました生地であんを巻き、桜の花を餅に飾り、桜の葉で巻く。

桜とお菓子に恋をして

桜のお菓子

自作の春の洋菓子には桜からインスピレーションを得たものが多い。春においしい苺などのベリー類を使ったお菓子や、軽やかな印象のお菓子をいくつも作ってきたが、その発想の根本にはいつも桜がある。 桜のショートケーキ

桜の枝に舞う蝶や、柳の新芽の間を舞い踊る花びら。いずれも瞬間を切り取った写真のイメージで生まれたお菓子だ。桜のドラマチックな美しさと、食べてなくなってしまうその瞬間の口福には、共通する儚さを感じるのだ。

桜舞うお菓子の時間のほんのかくし味。

桜 victor69 / 123RF 写真素材

日本人はなぜこれほどまでに桜に魅せられるのか。花としての美しさやゴージャスさはもちろん人々惹きつけて止まない。だが、本当の理由は・・・?

いわば桜への憧れか。透けるように薄い花びらの儚げな花が、冬の寒さを堪え忍びながら蕾をほころばせ、冬の終わりを「いの一番」に知らせる春の使者。そして、耐えて耐えてようやく咲いて、あろうことか散る間際が一番美しい。美学といわえるその潔さはまさに武士道の精神だそうだが、でもそんな小難しいことはさておき。

散るそのときまで、いちばん美しく生きたい
散るそのときこそ、いちばん美しくありたい

桜を愛でながらのお茶の時間。 年に一度くらい、自身の生き方の美学を桜に学ぶというのも悪くない。

豊田希

writer:豊田希

勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。

HP:Studio CREATABLE / クックパッド料理教室

ひなまつり 平安の世から現代まで変わらぬ願い

2016.03.01
writer:豊田希

節分が終わり花の季節が訪れる。

桜

豆まきをする節分は、「季節を分ける」という意味があるのはおなじみのところ。暗く長い冬が終わり、暖かな春が来る。いにしえの頃、人々がどれほどこの日を待ち侘びていたかと思いを馳せる。

歌で表現するならば、4月の桜は『サビ』。とすると、2~3月に春の香りを届けてくれる桃や梅は、『Aメロ』といったところか。あざやかな桃色や、透明感がある乳白色の花々は、桜に増して、可憐で奥ゆかしく儚げなうらやましいほどの女性美にあふれている。

ひなまつりは宮中のこどもたちが起源??

桃の節句

平安時代の宮中では、自分を模して作った草木や紙の人形に、自らの厄をのせて川に流すという儀式「流し雛」と、3月3日に人形を祀り厄除けを祈願する「上巳(じょうし)の節句」の儀式が行われていた。この時期は、邪気を祓うといわれる桃の花が咲くことから、やがて「桃の節句」と呼ばれるようになり、うららかな陽射しを浴び、ひな遊びをする女の子たちから、桃の節句=女の子のお祭りとなったとか。海外の王室がそうであるように、日本でも宮中は文化と流行の発信地だったというわけだ。

これまでもこれからも。

お正月が終わる頃、テレビを見ていると、老舗人形メーカーのCMが流れる。

「女の子の健やかな成長を願って。」

このキャッチコピーは、記憶する限り私がものごころついてから変わっていない。このセリフは新たに家族の仲間入りをしたプリンセスを持つオトナのお財布に効果抜群のキラーワードなのだろう。数十年前、私の祖父母も初めてのひなまつりに合わせてひな人形を贈ってくれた。その頃は、こんな憎まれ口を叩くとは想像していなかっただろうに。

ひなまつりならではの食。

お正月にいただくおせち料理とおなじく、古くからの伝統行事には食がつきものだ。地域によって特徴があるのもおもしろい。日本って、小さくて大きい国だなぁと、しみじみ感じる。あれもこれもと準備するのは大変だが、いくつか代表的なものをご紹介しよう。

「菱餅」
魔除け(桃色)、純潔(白)、健康(緑)で春の情景を表現している。

「白酒」
長寿を表す桃花を酒に浸した桃花酒が江戸時代から白酒に変化したといわれる。穢れ(けがれ)を祓う清めの酒として白酒がもちいられていたが、子供でも飲めるようにノンアルコールの甘酒もひなまつりアイテムとして広まった。

「蛤のすまし汁」
二枚貝である蛤は、他の貝殻とは絶対に合わないことから貞操と夫婦和合の願いが込められている。

「ちらし寿司」
海老(長寿)、蓮根(見通しがつく)、いくら(子孫繁栄)などの縁起の良い食材を多く使う。

「ひなあられ」
菱餅を砕いて作ったのが起源といわれる。宮中ではひな人形に春の景色を見せる行事があり、その際に携えたおやつだった。

我が家では、菱餅とひなあられをひな人形と共に飾り、3月3日の朝にはちらし寿司を備え、そして夜、蛤のすまし汁とともにお寿司をいただき、食後に甘酒をいただくのが定番だ。今年はどんなお寿司にしようかと考えるのもまた楽しい時間だ。

ひなまつりのほんのかくし味。

ひな人形

健やかな成長を願って買ってもらったひな人形。自分とほぼ同じ年月を刻んできたと思うと、愛おしさが年々増していく。1年のうちほんの数週間だけの対面に、誰しもいろいろな思い出を蘇らせるものだろう。

「ひなまつりが過ぎたらすぐに片付けないと婚期が遅れる」とよくいわれるが、過ぎた行事のものをいつまでも飾っておくのはだらしがないこと、という教えが、この脅しにつながったらしい。

ひとつひとつ飾り、またひとつひとつ片付ける。
お寿司やお菓子を供え、健康と平穏な毎日を願う。

大人になったいま、ひなまつりを丁寧に楽しむことが、両親や祖父母の想いに応えることなのではないだろうか。ふわりと鼻をくすぐる桃の香が、雅な時間に誘ってくれるはずだ。

writer:豊田希

勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。

HP:Studio CREATABLE / クックパッド料理教室

St.Valentine's Day それは愛の一日

2016.02.03
writer:豊田希

お正月が終わると、街に愛があふれる。

そう、バレンタインデーである。クリスマスの興奮冷めやらぬパティスリーやショコラトリーは、間髪入れずにオトメゴコロを刺激する。想いを寄せる人に、家族に、そして近年では女性同士や自分のために、ジュエリーのように美しい高級品を吟味する。私もバレンタイン前に開催されるチョコレートのイベントやデパートの催事を調べては足を運ぶ。買うのはほとんどが自分のためのものだけど。手作りに挑戦しようとする人の応援グッズも多種多様。製菓道具店や製菓材料店をのぞくと、ここでも女性達の真剣なまなざしに出会い、「がんばって!」と応援したくなる。

そもそもバレンタインデーって?

ときは紀元269年ローマ帝国時代の戦下に遡る。皇帝は「愛する人を故郷に残していると士気が下がる」と、兵士の結婚を禁止。それに異を唱えたバレンティヌス司教(聖バレンタイン)は秘密裏に兵士達の結婚に尽力。彼は捕らえられ、処刑されてしまう。人々の愛のため生きた彼が殉教したその日こそが2月14日。この日は「聖バレンタインデー」として「愛の一日」となった、といわれている。愛の日の陰には、ひとりの男の勇気ある行動があったというわけだ。

バレンタイン=チョコレートは日本だけ?!

日本では戦後まもない1958年。製菓業界と流通業界は、販売促進のために、ヨーロッパの文化に目を向けていた。その中で東京のチョコレートメーカーが打ったキャッチコピー。

「年に一度。女性から男性に愛の告白を!」

奥ゆかしきことが美徳とされた当時の日本女性にとって、どれほど特別に感じたことか!その流行はいつしか文化となり、バレンタインとチョコレートの甘い関係はこれからもずっと続いていくのだろう。

愛の国フランス・パリのバレンタインデー

いつも愛をささやいている(と思われている)パリジャンやパリジェンヌにとっても、バレンタインデーはやはり特別な一日だ。街角に花屋のベンダーが並ぶ。情熱的な赤いバラ一輪を選ぶ人もあれば、可憐なブーケを選ぶ人もあり。パティスリーには赤やピンク、ハートの形をしたお菓子やチョコレートが並び、ウィンドウやショーケースを華やかに彩る。カフェでは恋人達が愛を語りキスをする。家族は共にケーキを囲み、笑顔があふれる。この日のパリは、まさにばら色の空気に染まる。

バレンタインデーのほんのかくし味。

美しいパッケージの中に大切に包まれた愛の宝石。自らのために選んだチョコレート達も美しく、また美しい味がする。なんと穏やかな瞬間か。ぜいたくな口溶けにひととき身を預けながら、この愛の日の由来をいまいちど思い出す。

バレンタインデーって世界中が幸福を願う日なんだ、と。同じ空でつながった戦下の人々の心に、「愛の一日」が訪れますように、と。

口の中で優雅に溶けるチョコレートが、より濃厚で幸せな味わいになるはずだ。

writer:豊田希

勝負料理研究家。自らの料理教室Studio CREATABLEで、日常からおもてなしまで季節に合わせた料理を提案するほか、クックパッド料理教室にも加盟し、基礎に特化したレッスンを開講中。 2004年から料理研究家としての研鑽を積む。専門はフランス菓子。パリへのお菓子留学を通して、街、人、食、文化に強く惹かれて以来、エスプリをキャッチするため毎年パリを訪れるパリ愛好家でもある。 「勝負料理はありますか?」がテーマ。趣味は、食べ歩き。街歩き。観劇。

HP:Studio CREATABLE / クックパッド料理教室

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