愛用品カタログ
蚊取り線香
writer:AYAMI
寝苦しい季節になって来た。この時期、もう一つ寝苦しさを感じる理由に『アイツの襲来』がある。アイツは、口うるさくブンブン叫び続け、無視して寝ようものなら翌朝真っ赤な傷跡を残して去っていく。痒みに悶絶する私を、アイツはきっと天井裏からあざ笑っていることだろう。永遠の天敵、蚊である。
蚊取り線香と除虫菊
今の時代、様々な虫よけアイテムが発売されているが、私の一番のお気に入りは古典的な蚊取り線香だ。しかも天然の除虫菊でできたもの。
除虫菊とはシロバナムシヨケギクと呼ばれるキク科の植物。写真を見ると、マーガレットのようなかわいいお花で、虫を殺してしまうような物騒な面影は微塵もない。しかしその昔、捨てられた除虫菊の周りで天に召された虫を発見。こうして経験的に殺虫剤として用いられるようになったという。
日本では戦前まで、除虫菊はとてもポピュラーな花だったという。明治時代にKINCHO(大日本除虫菊株式会社)の創業者が初めて除虫菊の種を手に入れ、仏壇のお線香の技術を応用して蚊取り線香を発明。蚊は伝染病を媒介することもあるため、以後除虫菊を栽培することが各地で奨励されることとなる。戦後、殺虫成分『ピレスロイド』が化学的に合成できることがわかり、除虫菊は観光資源として使われるのみとなった。しかし蚊取り線香は世界中で愛用され、伝染病の予防や蚊の襲来に悩める市民たちに大いに貢献している。
虫除けと殺虫剤
近年、ナチュラル回帰という風潮もあり、この蚊取り線香が見直されている。ベランダをリビングの延長として活用する家庭や、キャンプの流行もあり、蚊取り線香を見かける機会が一気に増えた。
『殺虫効果』ではなく『忌避効果』を狙った商品も多く見られる。蚊取り線香と同じような形状をしていても、天然の除虫菊を多少配合していても、虫を殺すのではなく、嫌がらせて寄せ付けない、虫除けをうたったものだ。虫だって同じ生き物、殺さないであげようよ、という優しい発想である。こちらは、蚊が嫌いな香りであるミントやレモングラスが配合されているものが多い。どんなに屋内で焚いても、蚊が召されていなくなるわけではないので、屋外での使用に限る。
天然の除虫菊を使った蚊取り線香は、化学成分を嫌う人たちや、アレルギー体質の人たちに愛用されている。私はほんのり優しい植物の香りが大好きで愛用している。疲れが出てきた夕方、お香を焚くような感覚で、蚊取り線香に火をつける。
この香りが嗅ぎたくて、蚊取り線香をつけたくて仕方ない。でも、蚊がいる気配は全くない。そんな状況なのに蚊取り線香をつけてしまうのはもったいないし、でも嗅ぎたいし。今年もジレンマの夏になりそうだ。
writer:AYAMI
アロマティシアのオーナー。「香りと暮らし研究家」として活動。2011年より「アロマティシア」を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。