愛用品カタログ
ナポレオンの愛したオーデコロン『4711』
writer:AYAMI
クレオパトラ、ネロ、楊貴妃・・・・・・香りにまつわる権力者のエピソードは、古今東西尽きない。クレオパトラは毎日バラ風呂に入り、良い香りのする軟膏を身体中に塗っていたという。自分の身体だけでは飽き足りず、船にクローブの香りをつけたり、部屋中にバラの花びらをまいて、香りの空間演出もしていたらしい。彼女の周りからは、どれだけ良い香りが漂っていたことだろうか。
そんな権力者たちの愛した香りの中で、ナポレオンの愛した香水は、今も商品として販売され続けていることをご存知だろうか。『4711』というオーデコロンだ。
ナポレオンの愛した香り
『4711』には壮大なストーリーがある。18世紀、ナポレオンはドイツのケルンを占領する。そこで彼は衝撃的な香りと出会うことになる。『アクア・ミラビリス(すばらしい水)』、のちに『ケルンの水』といわれる、現地で流行していた軽やかな香りのオーデコロンだ。当時、ナポレオンのいたフランスではジャコウ鹿から採れるムスクなどの濃厚な香りが流行していた。彼は、このムスクとは正反対の爽やかな香りにすっかり夢中になってしまったのだった。
ケルン進駐軍の兵士たちは、こぞってケルンの水を本国にお土産として持ち帰り、愛する貴婦人たちに贈った。ナポレオンも、妻であるジョセフィーヌ妃にこの目新しい香りのオーデコロンをプレゼントした。妃はムスクの濃厚な香りが大好きだったが、以後、ナポレオンの前では爽やかなケルンの水とフローラルウォーターの香りしかつけるのを許されなかったと言われている。この香りは、今なお、『4711』という名前で売られており、『世界で最初のオーデコロン』として愛され続けている。
数年前ドイツに旅行した時、このロマンチックな物語を知らないまま、ゴージャスなパッケージと軽やかな香りに惹かれて、偶然お土産にしていた。ナポレオンがムスクの濃厚な香りと正反対の香りに惹かれたように、人工香料あふれる現代に生きる私も、免税店で売られている甘ったるい香りと正反対の爽やかさに惹かれたのだった。『4711』はオレンジ、ローズマリー、ラベンダー、ネロリなどのなじみ深い天然香料(アロマオイル)で作られており、男女ともにどのようなシーンでも気軽につけることができるのがロングヒットの理由だろう。
ナポレオンは、この爽やかな香水を生涯浴びるように愛用したと言う。日本で香水といえば女性や若者がメインユーザーだが、家庭のささやかな権力者(?)を標榜する中年男性も是非取り入れてみてはいかがだろうか。もう一度、その権力を手中に収める日が来ることを願って。
writer:AYAMI
アロマティシアのオーナー。『香りと暮らし研究家』として活動。2011年より『アロマティシア』を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。