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アロマと石鹸の物語

ローズマリーの物語

2017.03.03
writer:AYAMI
ローズマリー

記憶のハーブとして

2014年頃、店頭からローズマリーのアロマオイル(精油)が一斉に消えたことがあった。テレビで、「脳の若返りが期待できる認知機能に効果的なオイル」として紹介されたからだ。あれから数年。昔は「ローズマリー」というと、甘いバラの香りがするのかと聞かれることが多かったが、今ではだいぶ多くの人がスーっとする香りだと認識している気がする。

ローズマリーと記憶の関係については、昔から知られていた。古代ギリシアでは記憶力を高めるため、ローズマリーの花輪をつけて試験の時に臨んだという(a)。また、シェイクスピアの「ハムレット」では、オフィーリアが狂乱の中、草花をむしり取って手渡す場面がある。父を殺された想いと、ハムレットへの敗れた恋にかけて彼女が渡したのがローズマリー。

これはローズマリー、花言葉は<記憶>。――どうぞ、覚えていてね。(b)

オフィーリアはその後の場面で、花飾りをかけようと柳の枝に登ったところで枝が折れ、川に落ちて命尽きてしまう。ジョン・エヴァレット・ミレーの絵画「オフィーリア」でその場面を見たという人も多いだろう。 オフィーリア

ローズマリーは、「記憶」という意味から派生して、「友情」をも意味する(c)。エジプトでは、中世までローズマリーが追悼のしるしとして棺桶や墓石の上に置かれた(d)。ウェールズでは近年まで、葬儀の参列者が棺桶を埋葬する時にローズマリーを墓に投げ入れる風習が残っていた(a)。葬儀だけでなく結婚式にも欠かせないハーブで、中世ヨーロッパでは花嫁の冠にローズマリーが編み込まれ、来客には金色に塗られたローズマリーの枝が手渡されたという(c)

イングランドの黄金期として知られるエリザベス朝になると、ローズマリーのスーっとした香りを、意識が遠のいた時の気付薬として使った。シャルル・ペローの童話「眠れる森の美女」の中で、糸車の針に刺されて眠ってしまった王女のこめかみに、ローズマリーウォーターをすりこんで起こそうとする場面がある(e)。実生活でもこの時代の人々は、ローズマリーウォーターをこめかみにつけて、頭痛を治したという(f)。また、悪い夢にうなされないようローズマリーの葉を枕の下に置いて寝る習慣があった(f)

消毒のハーブとして

これらの話を聞くと、なんだか「まじない」のように思えるが、ローズマリーの薬効が経験的に知られていた結果だとも言える。ローズマリーがたびたび冠婚葬祭など神との契りを結ぶ場面で登場するのは、ローズマリーに精神鎮静作用があるからだろう。頭がすっきりとすることで精神が安定し、神聖な気持ちで神事に臨むことができる。また、地下室に死体が埋葬された教会はひどい臭いを放ったという(g)。こういった場所でローズマリーを焚くのは、悪臭対策としても有効であった。

さらに、人が密集する場所では、ローズマリーの強い殺菌消毒作用を期待して、病気予防の役割も兼ねていたのだろう。実際、フランスの教会や大聖堂ではローズマリーを焚いていた記録がある(f)。また、ペストが大流行した際には、消毒のためにローズマリーが公共の場で焚かれたという(a)。ジプシーの間では今でも魔除けとしてローズマリーの枝を子供が寝ている部屋のドアにつるす風習が残っているが(a)、病気をもたらす悪魔、すなわち病原菌を寄せ付けないための名残であろう。人から人へ感染するシラミやダニ、水虫の症状にも、ローズマリーが有効であることが近年の研究で分かっている(h)

この強い殺菌消毒作用は料理にも生かされている。ローズマリーを最初にスパイスとして知った人も多いのではないだろうか。ローズマリーはよく肉料理に添えられるが、ハーブの香りが肉の臭みを取ってくれる。また肉が腐るのを予防する効果もある。日本で言うところの、「刺身にワサビ」のようなものだ。消化を助ける作用もあるため(c)、肉のような消化に時間のかかる食材にはぴったりの付け合わせだ。ところで、このローズマリーの殺菌消毒作用は、現代では食品の日持ちを良くさせる天然の酸化防止剤として用いられている(i)。食品表示では「ローズマリー抽出物」と書かれているので、お手元の食品を見てもらいたい。 オ肉料理にローズマリー

若返りのハーブとして

ローズマリーといえば「若返りの水」と言われる「ハンガリアンウォーター」で知っている人も多いだろう。ローズマリーをアルコールで溶かしたものがレシピだ。伝説によれば、リューマチに悩まされていたハンガリーの女王エリザベートが、廷臣から渡された秘伝の「若返りの水」を使っていたところ、みるみるうちに持病が治り、魅力的な姿になったという。あまりにも美しかったからか、七十二歳にして隣国ポーランドの王様から結婚を申し込まれ、その後ハンガリーとポーランドは一つの国となったという素敵な物語である(j)。この話はあくまで伝説だが、ハンガリーウォーターのレシピはウィーン王立図書館に保存されている。そのレシピでは、ローズマリー、バラ、ミント、レモンピールのハーブと、オレンジフラワーの蒸留水をウォッカに二週間漬けこみ、ガーゼで濾す(j)

現在ではローズマリーの化学的研究が進み、老化を防ぐ効果、肌を引き締める効果などが実証されている。また、アクネ菌の増殖を抑える作用もあるという(h)。アンチエイジングを謳う商品に、ローズマリーのハーブエキスが数多く使われているのはそういった理由からだ。

近年、アロマテラピーの効果を化学的に証明する動きが盛んになり、ローズマリーにはぜんそくや花粉症の原因となるヒスタミンを抑える効果や、炎症を抑える作用があることもわかった(d)。現代では市場に効果の高い薬がたくさん出ており命を救っていることを考えると、アロマのみを万能薬として使うことはナンセンスだが、日々の心身のメンテナンスの一助にそばに置いておくのは無駄にはならないと言えるだろう。

参考文献

  1. ジュリア・ローレス(1996)『ローズマリー油 精油の科学と使用法シリーズ4』ローズマリー ジュリアローレス
  2. ウィリアム・シェイクスピア(2003)『新訳ハムレット』 角川文庫
  3. A.W. ハットフィールド(1993)『ハーブのたのしみ』 八坂書房
  4. ナンシー・J・ハジェスキー、他(2016)『ハーブ&スパイス大事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  5. シャルル・ペロー(2016)『眠れる森の美女』 新潮文庫
  6. ジュリア・ローレス(1996)『心を癒すアロマテラピー 香りの神秘とサイコアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社
  7. アラン・コルバン(1998)『においの歴史――嗅覚と社会的想像力』 新評論
  8. 井上重治、他(2011)『抗菌アロマテラピーへの招待』 フレグランスジャーナル社
  9. ティエラオナ・ロウ・ドッグ、他(2014)『メディカルハーブ事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  10. 永岡治(1998)『クレオパトラも愛したハーブの物語――魅惑の香草と人間の5000年』 PHP研究所

writer:AYAMI

アロマティシアのオーナー。『香りと暮らし研究家』として活動。2011年より『アロマティシア』を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。

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