アロマと石鹸の物語

アロマと石鹸の物語

アロマや石鹸は古代から世界各地で使われてきました。様々な文献に書かれたり名画や文豪の作品に描かれた、アロマや石鹸の歴史とその背景の物語をご紹介します。

ティートリーの物語

2017.05.30

ティートリーの物語

昔からアボリジニの万能薬として使われてきたティートリーだが、強力な防腐・殺菌作用があることがわかり商業的に栽培され始めたのは1980年代に入ってからだ。古くて新しいティートリーの歴史をご紹介します。

ラベンダーの物語

2017.03.31

ラベンダーの物語

ラベンダーは昔から多くの国で栽培され活用されてきた。乾いて痩せた土地でも栽培が簡単で、摘んでも色あせず香りが続くが一因だろう。ラベンダーがきっかけとなったアロマテラピーの歴史や伝統療法をご紹介します。

ローズマリーの物語

2017.03.03

ローズマリーの物語

ローズマリーは記憶・消毒・若返りのハーブとして古代からギリシャやヨーロッパなどで使われている。その薬効は経験的に知られており、葬儀・結婚式・料理などに欠かせない。ローズマリーの物語をご紹介します。

writer:AYAMI

アロマティシアのオーナー。『香りと暮らし研究家』として活動。2011年より『アロマティシア』を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。

ティートリーの物語

2017.05.30
writer:AYAMI

ティートリーとの最初の遭遇は衝撃的なものだった。“TEATREE”――お茶の木から採れたオイルってどんな香りがするのだろう。爽やかな緑茶のような香りを想像しながら、私はボトルに顔を近づけたのだった。胸いっぱいに香りを吸い込む。香りを味わおうとしたその瞬間、想像とは全く違う、むせかえるようなツーンとした匂いが漂ってくるではないか。どちらかと言うとユーカリやミントのような香り。又は、消毒剤のような薬のような、何だか「効きそう」な香り。そこに、お茶の要素は全くなかった。 ティートリー

アボリジニの万能薬

ティートリーの名前の由来を調べてみると、不可思議なことにやはり「お茶の木」が由来だった。その昔、オーストラリアでは先住民族のアボリジニたちが、ティートリーを民間療法として用いていたという。咳が出たり風邪をひいた時にはティートリーの葉を噛んで痛みや症状を和らげ、呼吸器に異常をきたした時には葉を砕いてオイルを吸入し、傷口や火傷には水に浸してできたエキスを塗った。また、体調不良の時はティートリーの葉を煮出して飲用していたという(b)

1770年、かの有名なイギリス海軍のジェームズ・クック船長により、オーストラリアへの白人の入植が始まった。入植者たちは、アボリジニたちが飲んでいた大変香りの良い飲み物を見て、それをお茶の木、すなわち"TEATREE"と呼んだという。クック船長が、愛飲していたビールにティートリーの葉を加えたところ、ビールの味が格段に良くなったという逸話も残っている(a)

ジェームズ・クック船長
ジェームズ・クック船長

ちなみにティートリーの木は、お茶の木とは全く別のものだ。お茶はツバキ科、ティートリーはフトモモ科で、日本では学名のMelaleuca alternifoliaにちなんで、「メラレウカ」とも呼ばれる。同じくオーストラリアに自生しフトモモ科に属すハーブには、カユプテ、ニアウリ、ユーカリ、クローブがあり、どれもティートリーと同様、強力な殺菌作用がある(d)。ちなみにマヌカハニーのマヌカもフトモモ科だ。マヌカハニーはピロリ菌をも殺す強力な殺菌力で知られている。

忘れ去られたティートリー

アボリジニたちにとっては万能薬として使われていたティートリーだったが、当時、ティートリーに価値を見出す入植者は少なかった。先住民が使っているものは「原始的」で「未開」というイメージが先行していたからだ。これは同じくアボリジニたちが愛用していたユーカリについても同様だ。当時のヨーロッパでは、ハーブは薬として大変重宝されていたのに皮肉なことである。こうしてティートリーはヨーロッパの人々の記憶から徐々に忘れ去られていった(a)

“Tea Trees near Cape Schanck, Victoria” by Eugene von GUERARD (1865)油絵
オーストラリアのケープ・シャンク近くのティートリーを描いた絵画 
(“Tea Trees near Cape Schanck, Victoria” by Eugene von GUERARD, 1865, 油絵)

そんなティートリーが「再発見」されるのは、クック船長の時代から150年も経った1920年代になってからのことだ。オーストラリア政府主導で行われた研究では、ティートリーには当時使われていた消毒剤の13倍の防腐作用と殺菌作用があることがわかった(a)。これを機に、世界中でティートリーの薬理効果について研究が始まることになる。

やがてティートリーは、ウイルス性(インフルエンザなど)、真菌性(水虫など)、細菌性(化膿した傷など)の感染症すべてに有効であることがわかり(a)、家庭の万能薬として常備されるようになっていった。オーストラリアの医師は、傷や切開手術の際にティートリーを使った(b)。第二次世界大戦が始まると、オーストラリアの陸軍や海軍では救急処置薬としてティートリーが常備される(b)。軍需工場では機械の切断用オイルにティートリーが配合され、皮膚の傷を防いだ(a)

しかし第二次世界大戦が終わると、再びティートリーは忘れ去られてしまう。時代は自然療法ではなく、「化学」に傾いていったのだ。数々の有用な薬や殺菌剤が発明され、以後、世界的に、ハーブや自然療法は次第に「おばあちゃんの知恵袋」のアイテムの一つになっていった。

このままハーブはその運命を終えるかと思われたが、1960年代に再び注目を浴びるムーブメントが起こる。当時は、化学物質による環境問題や、薬の副作用、抗生物質の耐性菌の問題が議論されるようになっていた。ヒッピーによる自然回帰運動が興ったのはちょうどこの頃だ。彼らによって、再びハーブや自然療法に注目が集まるようになったのだった。

そして、1980年代にティートリーが「再再発見」される。ティートリーの薬理効果の研究が進むと、ティートリーを商業的に農場で栽培する人たちが現れたのだ。以前のオーストラリアでは、ティートリーは根こそぎ取らないとすぐに生えてくる、入植者にとって非常にやっかいな木だと思われていた。しかし、今では約二年で精油が採取できる、非常に効率の良い「金のなる木」となった(a)

ティートリーの農場
ティートリーの農場

ティートリーの歴史は古くて新しい。近年ではティートリーの消毒・殺菌作用、皮膚再生作用などの論文も多く出ており(c)、様々な商品にティートリーの精油が配合されている。石鹸を始め、化粧水やシャンプー、洗濯洗剤から犬猫のケアまで多種多様。こうしてアボリジニの万能薬は、現代の私たちにとっての万能薬になった。アボリジニたちがこれで傷口を治していたことを想像しながら、今日も私は擦り傷にそっとティートリーを塗りこんでいる。

参考文献

  1. ジュリア・ローレス(1998)『ティートリー油 精油の科学と使用法シリーズ 3』 フレグランスジャーナル社
  2. ティエラオナ・ロウ・ドッグ、他(2014)『メディカルハーブ事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  3. 井上重治、他(2011)『抗菌アロマテラピーへの招待』 フレグランスジャーナル社
  4. シャーリー・プライス、他(1999)『プロフェッショナルのためのアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社

writer:AYAMI

アロマティシアのオーナー。『香りと暮らし研究家』として活動。2011年より『アロマティシア』を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。

当ウェブサイトに掲載されているコンテンツは著作権法により保護されており、許可なく複製・転用などすることは法律で禁止されています。当ウェブサイトの内容を、ブログ・他のウェブサイト・雑誌・書籍などへ転載・掲載する場合は、事前に必ずアロマティシアまでご連絡下さい。

ラベンダーの物語

2017.03.30
writer:AYAMI

小さな頃、祖母の家に行ったら北海道土産というラベンダーのサシェが飾られていた。少し前から飾られていたからか、ちょっと酸味がかった香りがしたラベンダーは、私の中で「おばあちゃんの香り」として記憶に焼き付いていた。それから何十年も経った頃、クロアチアでラベンダーのサシェに出会った。クロアチアはラベンダーが雑草のように生えていて、ラベンダーの精油(アロマオイル)も大量に生産されている。収穫間もないラベンダーのサシェは、祖母のサシェと全く違い、甘く丸みを帯びた香りだった。

ラベンダーのサシェ
ラベンダーのサシェ

ラベンダーがきっかけとなったアロマテラピー

乾いて痩せた土地でも栽培が簡単で、摘んでも色あせず香りが続くラベンダーは、昔から多くの国で栽培され活用されてきた。古代エジプトでは、ミイラを包む布をラベンダー水で浸し、遺体が傷むのを防いだ(a)。ローマの上流階級の人々は、ラベンダーの花を浴槽に浮かべて入浴を楽しんだという(a)。このことから、ラベンダーはラテン語の「洗う(lavare)」という言葉に由来すると言われている(b)。またローマ人は分娩の際、妊婦の周りでラベンダーを焚いたという(b)。ラベンダーに鎮静作用があることを当時の人々は経験的に知っていたのだろう。ラベンダーはローマ兵士によってヨーロッパ中に広まり、13~14世紀になると修道院の薬草園の定番植物となる(b)

中世になりペストが大流行すると、ラベンダーを家や教会の床に撒いて殺菌した(b)。16世紀、エリザベス王朝時代になると、貴族たちの間でハーブガーデンを作り、庭先で精油を蒸留して、自家製の化粧水や石鹸、サシェやポマンダーなどを作ることが流行の最先端となっていった(c)。エリザベス女王もラベンダーの砂糖漬けやジャムを好んだと言われており(c)(d)、また貴族の女性たちの間ではスカートの裾にラベンダーのサシェを縫い付けることが流行った(c)。ちなみに最近、日本の大手メーカーから発売された天然成分100%を謳う防虫剤には、ラベンダーの精油が配合されている。昔の貴族たちも、サシェを箪笥の中に入れ、服に虫がつくのを防いだという(c)

英国の黄金時代を気づいたエリザベス女王
英国の黄金時代を築いたエリザベス女王

エリザベス女王に『新本草書(A New Herball)』を献上した植物学の父ウィリアム・ターナーは、ラベンダーを「頭を休めるためのハーブ」と位置づけ、気付薬や精神的に弱っている患者をリフレッシュさせるために使用することを薦めた(b)。ロンドンに薬草園を開いたジョン・ジェラードによると、ラベンダーは情熱を抑える作用(恐らく鎮静作用を指す)があるため、「貞節を守るハーブ」だと言う(b)。これを逆手に、淑女を装った娼婦たちは、ラベンダーの香水をつけて客引きをしていたという記録が残っている(c)

このようにラベンダーは、当時の人々の生活や伝統療法と密着していたが、18世紀後半の産業革命をもって、イギリスでのハーブと人々の蜜月関係に幕が下ろされる。一方フランスでは、産業革命が遅れたこともあり、ハーブの伝統療法が細々と守られた。第一次世界大戦になると、フランス軍医は伝統的に殺菌に使われてきたラベンダーを、負傷した兵士の傷に使用した(b)。薬が足りなかった戦争特有の事情だが、これによってラベンダーの殺菌作用が注目され、アロマの臨床研究を発展させることになる。

そしてここに転機がやって来る。19世紀、フランス人のルネ・モーリス・ガットフォセは、父親の経営する化粧品会社で精油の研究をしていた。ある日、実験中に手に大やけどを負ってしまったガットフォセは、ラベンダー油で洗浄したところ、壊疽していた傷が治ったという体験をした(g)。これに驚いたガットフォセは1937年、『アロマテラピー』という著作を発表し、精油の薬理効果を世に知らしめる。彼の命名した「アロマテラピー」のこの後の発展は、言うまでもないだろう。

ラベンダーには様々な種がある

野生のラベンダーは交雑を重ね、現在では様々な種のラベンダーがある。ラベンダーは全体として、抗菌作用や抗炎症作用に優れている。その中でも甘く芳醇な香りが強い種は、リラックス作用が強い(e)。一般的に出回っている種はこの甘いもので、イングリッシュラベンダー(ラベンダー・コモンラベンダー・真正ラベンダーとも呼ばれる、学名はLavendula augustifolia)だ。入眠効果や、認知機能の若返りを期待するならこの種を使うと良い。

一方、スーッとした香りが強い種は、リフレッシュ作用があり、虫を寄せ付けない効果や花粉症など呼吸器系のトラブル・気管支系のトラブルに優れている(e)。これらはスパイクラベンダー(学名:Lavandula latifolia)や、ラバンジン(学名:Lavandula hybrida)と呼ばれる。ラバンジンは、イングリッシュラベンダーとスパイクラベンダーを交雑したものだ。イングリッシュラベンダーより収穫量が多いために安く出回っていることから、ラベンダーと謳う化粧品にはラバンジンがこっそり入っていることがある(f)ラベンダーと虫除け効果

余談だが、アロマテラピーを習い出した当初、私は甘くてリラックス作用のより強い「ラベンダー・ハイアルト」という種の精油を好んで使っていた。ハイアルトとはHigh altitude、つまり標高が高いことを意味する。この種は標高の高い場所で育ち、そういった場所には虫がいないので、虫が嫌がるスーッとした香りがなく、より甘い香りが感じられる。当時はこの種でお手製虫除けスプレーを作っていた。だから、勉強を重ねてハイアルトに虫除け効果はないと知った時には驚愕したものだ。最近では虫除け効果もあり、庶民的なお値段のラバンジンが私のお気に入りとなっている。

参考文献

  1. ナンシー・J・ハジェスキー、他(2016)『ハーブ&スパイス大事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  2. ジュリア・ローレス(1996)『心を癒すアロマテラピー 香りの神秘とサイコアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社
  3. ジュリア・ローレス(1997)『ラベンダー油 精油の科学と使用法シリーズ 1』 フレグランスジャーナル社
  4. A.W. ハットフィールド(1993)『ハーブのたのしみ』 八坂書房
  5. シャーリー・プライス、他(1999)『プロフェッショナルのためのアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社
  6. 林伸光、他(2006)『アロマテラピーコンプリートブック 下巻』 BABジャパン
  7. ルネ・モーリス・ガットフォセ 、他(2006)『ガットフォセのアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社

writer:AYAMI

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ローズマリーの物語

2017.03.03
writer:AYAMI
ローズマリー

記憶のハーブとして

2014年頃、店頭からローズマリーのアロマオイル(精油)が一斉に消えたことがあった。テレビで、「脳の若返りが期待できる認知機能に効果的なオイル」として紹介されたからだ。あれから数年。昔は「ローズマリー」というと、甘いバラの香りがするのかと聞かれることが多かったが、今ではだいぶ多くの人がスーっとする香りだと認識している気がする。

ローズマリーと記憶の関係については、昔から知られていた。古代ギリシアでは記憶力を高めるため、ローズマリーの花輪をつけて試験の時に臨んだという(a)。また、シェイクスピアの「ハムレット」では、オフィーリアが狂乱の中、草花をむしり取って手渡す場面がある。父を殺された想いと、ハムレットへの敗れた恋にかけて彼女が渡したのがローズマリー。

これはローズマリー、花言葉は<記憶>。――どうぞ、覚えていてね。(b)

オフィーリアはその後の場面で、花飾りをかけようと柳の枝に登ったところで枝が折れ、川に落ちて命尽きてしまう。ジョン・エヴァレット・ミレーの絵画「オフィーリア」でその場面を見たという人も多いだろう。 オフィーリア

ローズマリーは、「記憶」という意味から派生して、「友情」をも意味する(c)。エジプトでは、中世までローズマリーが追悼のしるしとして棺桶や墓石の上に置かれた(d)。ウェールズでは近年まで、葬儀の参列者が棺桶を埋葬する時にローズマリーを墓に投げ入れる風習が残っていた(a)。葬儀だけでなく結婚式にも欠かせないハーブで、中世ヨーロッパでは花嫁の冠にローズマリーが編み込まれ、来客には金色に塗られたローズマリーの枝が手渡されたという(c)

イングランドの黄金期として知られるエリザベス朝になると、ローズマリーのスーっとした香りを、意識が遠のいた時の気付薬として使った。シャルル・ペローの童話「眠れる森の美女」の中で、糸車の針に刺されて眠ってしまった王女のこめかみに、ローズマリーウォーターをすりこんで起こそうとする場面がある(e)。実生活でもこの時代の人々は、ローズマリーウォーターをこめかみにつけて、頭痛を治したという(f)。また、悪い夢にうなされないようローズマリーの葉を枕の下に置いて寝る習慣があった(f)

消毒のハーブとして

これらの話を聞くと、なんだか「まじない」のように思えるが、ローズマリーの薬効が経験的に知られていた結果だとも言える。ローズマリーがたびたび冠婚葬祭など神との契りを結ぶ場面で登場するのは、ローズマリーに精神鎮静作用があるからだろう。頭がすっきりとすることで精神が安定し、神聖な気持ちで神事に臨むことができる。また、地下室に死体が埋葬された教会はひどい臭いを放ったという(g)。こういった場所でローズマリーを焚くのは、悪臭対策としても有効であった。

さらに、人が密集する場所では、ローズマリーの強い殺菌消毒作用を期待して、病気予防の役割も兼ねていたのだろう。実際、フランスの教会や大聖堂ではローズマリーを焚いていた記録がある(f)。また、ペストが大流行した際には、消毒のためにローズマリーが公共の場で焚かれたという(a)。ジプシーの間では今でも魔除けとしてローズマリーの枝を子供が寝ている部屋のドアにつるす風習が残っているが(a)、病気をもたらす悪魔、すなわち病原菌を寄せ付けないための名残であろう。人から人へ感染するシラミやダニ、水虫の症状にも、ローズマリーが有効であることが近年の研究で分かっている(h)

この強い殺菌消毒作用は料理にも生かされている。ローズマリーを最初にスパイスとして知った人も多いのではないだろうか。ローズマリーはよく肉料理に添えられるが、ハーブの香りが肉の臭みを取ってくれる。また肉が腐るのを予防する効果もある。日本で言うところの、「刺身にワサビ」のようなものだ。消化を助ける作用もあるため(c)、肉のような消化に時間のかかる食材にはぴったりの付け合わせだ。ところで、このローズマリーの殺菌消毒作用は、現代では食品の日持ちを良くさせる天然の酸化防止剤として用いられている(i)。食品表示では「ローズマリー抽出物」と書かれているので、お手元の食品を見てもらいたい。 オ肉料理にローズマリー

若返りのハーブとして

ローズマリーといえば「若返りの水」と言われる「ハンガリアンウォーター」で知っている人も多いだろう。ローズマリーをアルコールで溶かしたものがレシピだ。伝説によれば、リューマチに悩まされていたハンガリーの女王エリザベートが、廷臣から渡された秘伝の「若返りの水」を使っていたところ、みるみるうちに持病が治り、魅力的な姿になったという。あまりにも美しかったからか、七十二歳にして隣国ポーランドの王様から結婚を申し込まれ、その後ハンガリーとポーランドは一つの国となったという素敵な物語である(j)。この話はあくまで伝説だが、ハンガリーウォーターのレシピはウィーン王立図書館に保存されている。そのレシピでは、ローズマリー、バラ、ミント、レモンピールのハーブと、オレンジフラワーの蒸留水をウォッカに二週間漬けこみ、ガーゼで濾す(j)

現在ではローズマリーの化学的研究が進み、老化を防ぐ効果、肌を引き締める効果などが実証されている。また、アクネ菌の増殖を抑える作用もあるという(h)。アンチエイジングを謳う商品に、ローズマリーのハーブエキスが数多く使われているのはそういった理由からだ。

近年、アロマテラピーの効果を化学的に証明する動きが盛んになり、ローズマリーにはぜんそくや花粉症の原因となるヒスタミンを抑える効果や、炎症を抑える作用があることもわかった(d)。現代では市場に効果の高い薬がたくさん出ており命を救っていることを考えると、アロマのみを万能薬として使うことはナンセンスだが、日々の心身のメンテナンスの一助にそばに置いておくのは無駄にはならないと言えるだろう。

参考文献

  1. ジュリア・ローレス(1996)『ローズマリー油 精油の科学と使用法シリーズ4』ローズマリー ジュリアローレス
  2. ウィリアム・シェイクスピア(2003)『新訳ハムレット』 角川文庫
  3. A.W. ハットフィールド(1993)『ハーブのたのしみ』 八坂書房
  4. ナンシー・J・ハジェスキー、他(2016)『ハーブ&スパイス大事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  5. シャルル・ペロー(2016)『眠れる森の美女』 新潮文庫
  6. ジュリア・ローレス(1996)『心を癒すアロマテラピー 香りの神秘とサイコアロマテラピー』 フレグランスジャーナル社
  7. アラン・コルバン(1998)『においの歴史――嗅覚と社会的想像力』 新評論
  8. 井上重治、他(2011)『抗菌アロマテラピーへの招待』 フレグランスジャーナル社
  9. ティエラオナ・ロウ・ドッグ、他(2014)『メディカルハーブ事典』 日経ナショナルジオグラフィック社
  10. 永岡治(1998)『クレオパトラも愛したハーブの物語――魅惑の香草と人間の5000年』 PHP研究所

writer:AYAMI

アロマティシアのオーナー。『香りと暮らし研究家』として活動。2011年より『アロマティシア』を立ち上げ、香りや自然を取り入れた暮らし方について伝える講座や活動をしている。趣味はキャンプで、週末は森の中で過ごすことが多い。

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